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独白⑫

『マスターッ!!! マスター、しっかり! しっかりしてください! マスター!』


私の呼びかけに、マスターは返答どころかピクリとも動きさえしなかった。


心素(エナ)魔素(マナ)で身体を強化できないチキュウ人や、エーテルリンクの駆け出し魔術師程度なら即死するだろうレベルの攻撃を受けたのだから無理もない。むしろ、そんな衝撃を直撃して生きているだけでも運がいい。


そうだと分かってはいても、私はマスターに呼びかけるのを止められなかった。この不安に満ちた心を落ち着けるには、そうするしかなかった。そして、僅かに繋ぎ、徐々に遠ざかっているように思えるマスターの意識を、呼びかけることで手繰り寄せているように、この時の私は感じていた。


たとえそれが、眼前の武人に主の存命を知らせる行為であったとしても。


「……しぶといものだ」


地に伏せる主を見、リーと名乗った男性は吐き捨てるように呟いた。その視線が、倒れ伏すマスターのお腹の下に敷かれている、左手を睨んでいるのだと分かり、私はようやく察する。


マスターが、己が倒れて身動きが取れなくなる寸前、残されたリラの刃を左手に集め、短剣の柄に変じさせ、暴虐の限りを尽くすこの男性から身を挺して隠したのだと。


それと気付いた途端、居ても立っても居られなくなった。


主の全身を覆っていた夜色の鎧状態を解除。人間の姿へと戻ると同時に、限定魔装形態リミットデバイスモードを発動させ、夜色の短剣を構え、マスターとリーの間に立ちはだかる。


「これ以上の非道は、私が、許しません」


「…………」


分かっている。マスター、アイリス様、リラ……更にはルナ様たち全員を、私一人で護り切れる筈もないことは。


だからと言って、そのまま黙っていることなんて出来ない。

何もせずにいるのなら、舌を噛んで死んだほうがましだ。


たとえ一撃のもとに沈もうとも、一矢報いて見せる。


……そんな私の決死の覚悟が伝わったのか、否か。

ふう、と小さく溜息を吐いたリーの姿が、一瞬の内に私の目の前から消え失せた。


驚愕に目を見開き、揺らいだ心素を辿り、振り返る。

一秒前まで私の目の前にいた男性は、数メートル後ろで私に背を向けていた。


向かい合っているのは、当初、彼が求めていた本来の標的。

神位魔術師、心魂奏者サンファ。


「貴様が篭絡した哀れな傀儡もあのザマだ。さあ、覚悟しろ」


背中越しにも伝わってくる、焼け付きそうなほどの殺気。自分に向けられているものではないのに、私の頬には冷や汗が伝っていた。


しかし……その殺気を一身に受けているはずの魔術師は、遠目にも分かるほど、くっきりと笑みを浮かべていた。


かつてエーテルリンクでも目にした、歪んだ狂気を秘めた瞳で。

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