コンクリ<鉄<<<<<拳くらい強い④
余りに集中力が研ぎ澄まされ、刹那の攻防が無限にも感じられる。
そんな中、もう何度目かも分からない李の掌底が俺の肩を掠めた時だった。
パチン! と小気味良く指を鳴らす音が、俺の後方で響き渡る。
それと同時、眼前の男性の動きがビタッと硬直した。
機を窺っていたアイリスによる、氷属性を宿した魔素が李の両脚を縫い止めたのだ。
そこを逃さない――!
状況を把握した直後、触れそうな程に近くだった李から、二メートル弱程度の距離をもって離れる。
飛び退った位置で夜色の魔法陣を蹴って再び前進。全身を巡るありったけの心素を、瞬時に右足に集める。
振り抜く。
「『黒刺夢槍!!』」
放たれた棘持つ夜色の槍は、かつてスプリングロードゥナやサンファに放ったものと遜色ない、むしろそれを凌駕するのではと思われる程に強大な規模だった。
それだけの心技を生身の人間に向けて放ったものの、後悔や焦りの感情は湧き上がらない。
生命回路から伝わってくる相棒の感情もまた、警戒を緩めていなかった。
迫り来る黒槍に対し、一切動揺の色を示さない李の双眸が、俺たちに安堵することを許さなかった。
両脚を拘束された状態であることに加え、分厚い鋼鉄をもブチ抜くであろう心技を目の当たりにしているというのに、男性は眉一つ動かさない。
ただゆっくり右の拳を腰元に引き絞り、尋常なまでの量、練り上げられた心素をそこに込める。
等速で迫る黒槍を見据え、着弾寸前でそっと拳を添えたのが見えた。
「崩――」
深い皴の刻まれた李の口が、一言そう呟くと共に。
その身に宿した爆弾が破裂したかのように、黒刺夢槍が内側から弾け飛んだ。
『そんな――』「――ことってあるか!?」
俺とディアナが目の前で起こった出来事を受け入れられず、目を見開いて驚愕している、そんな一瞬の内に……黒槍を打ち破った男性は、両足を縛る氷を砕き、驚きの余り硬直する俺たち二人の横を駆け抜けた。
そのことに気付き、振り返った途端目に飛び込んできたのは、黒刺夢槍の破壊という衝撃に驚いて固まっていたアイリスが、李の掌底の直撃を受ける瞬間だった。
そのダメージが引き金になったのか、金髪の少女の瞼がゆっくりと閉じ、彼女が意識を失ったことを伝えてくる。
「アイリスっ……!」
弾けるように地面を駆け、感情のままに李の背後から拳を繰り出す。
しかし、そんな攻撃もこの武人は容易く受け流し、逆に肘鉄のカウンターを食らってしまう。
鳩尾に命中した一撃は俺の呼吸を止めるには過分に過ぎた。
再びの呼吸困難に陥り、気絶して地面に倒れ伏すアイリスを目の前に蹲る。
そんな俺たちを何事も無かったように一瞥した李が、本来の標的である魔術師に爪先を向ける。
――そのとき、モール内と駐車場を繋ぐ扉の脇に投げ出されていた俺の鞄から、目にも止まらぬ速さで五枚の刃が飛び出した。




