コンクリ<鉄<<<<<拳くらい強い③
今しかない。
「ディ……ア、ナ!」
咳き込んだ血を雑に拭い、俺は肩を支える相棒に視線を送る。
ろくに剣術を学んだことも無い俺の雑な剣筋では何の抵抗にもならない。僅かにでも可能性があるのは、月神舞踏ただ一つ。
そして、変身するには李と距離が離れたこの瞬間しかない。
「マスター……! っ、分かりました!」
俺の口元に滲む血を見、一瞬躊躇した様子のディアナだったが、俺と同じ結論に至った様子で縦に首を振る。
即座に夜色の帯へと変じた相棒が俺を包み、月神舞踏への変換が完了する――
その瞬き一回にも満たないくらいの間に、既に李は俺とアイリスへの距離を詰めていた。
ズキズキと鈍い痛みを訴えてくる身体を鞭打ち、足元に夜色の魔法陣を展開。矢の如く烈火の速さで撃ち出されてくる拳を飛び上がって回避し、その腕を軸に空中で縦に回転する。
カウンターで放った俺の踵落としを、予想していたのか、李は身を屈めて躱した。
その回避は、同時に飛び掛かっていたアイリスの掴みもまた躱す一手だった。
李は、無防備に空いた金髪の少女の胴に、ト、トンと浅く掌底を打ち込む。
「い゛っ、つ!?」
俺の時とは違い、即座に通った痛みに、アイリスが顔を歪める。隙を見せた少女を、しかし李は深追いせず、着地と共に踏みつける魂胆だった俺のことを回避し、今度は自ら距離を取った。
『アイリス様、お身体は大丈夫ですか!?』
「う、うん、なんとか……!」
ディアナの呼びかけに、脇腹を抑えて渋面を見せるアイリスが応じる。苦しそうではあるが、そこまで大きなダメージは無いようだ。
浅い呼吸を繰り返して息を整えるアイリスと共に、今尚こちらへの戦意を示し続ける李へ、俺は向き直った。
「アイリス!」
「任せて!」
俺は少女へ短く呼びかけると、こちらを睨み続ける男性へと向かって一人駆け出した。
夜色の魔法陣を蹴り、瞬時に加速して肉薄する。
瞬間的な加速で不意を突けるかと少しは期待したが、李は俺のスピードに即応した。
掴みかかるべく伸ばした腕が、丁度手首の辺りを手の甲で弾くような形でピンポイントで防がれる。
俺はディアナとの呼吸を合わせながら、その場で付かず離れずの位置で縦横無尽に立ち回り続けた。
時には致命の威力を秘めた掌底や膝、蹴りや拳が容赦なく迫るが、どれも紙一重で回避し、どうにか身体を掠める程度に止める。
これまでに無いほど……それこそ、ついさっきまでのルナちゃんのライブ時に匹敵するほどに、俺は集中力を研ぎ澄ませた。一瞬でもクリーンヒットしたら終わりだと分かっていたからだ。
だからこっちの攻撃がまるで通用していなくても、その場に李を固定することに重きを置き、タイミングを窺う。




