コンクリ<鉄<<<<<拳くらい強い②
「アイリス様っ!」
目の前で行われた一瞬の攻防の内に俺の元まで辿り着いたディアナが、痛みに表情を歪めるアイリスの名を叫んだ。
俺やアイリスを気遣うディアナの姿を見た李が、一瞬、もの悲しそうな視線で目を細めたように見えた……が、瞬き一回の内に、その痕跡も感じられない、殺意溢れた雰囲気に戻る。
背筋が震えあがりそうなほどの負の感情を向けられ、ようやく呼吸が落ち着いてきた俺と、その肩を支えるディアナが身構える。
そんな俺たちのやや後ろで、サンファがぼそぼそと呟く。
「……この男はね、当時己の武を極めるために、チキュウ中を武者修行していた偏屈者さ。本当なら心素なんて力も、召喚による運動能力の向上も必要無い、自分の実力だけで魔晶回収をこなせるほどの武人だよ。まあ、それだけの頑固さをそのまま心素の強力さと考えて、召喚したのさ」
中国拳法を修め、己の右に出る者は無いとまで謳われた。しかしそこで妥協せず、更なる高みを目指し放浪の旅をしていたところを、サンファによって召喚されたのだと言う。
成程、向けられる殺気の強さ。無駄な動き一つない、洗練された動き。今のサンファの話も納得出来る、どころか、それくらいの経歴ある人物でないと、逆に説明がつかない。
しかもそんな人物が、魔晶回収の旅を経て心素まで自在に扱えるようになったとか……これ、成す術あるのか……?
話を聞いてもらおうにも、向こうは聞く耳を持たない。どうにかして動きを止めるか、一度気絶させるくらいしなければいけないと思っていたが……それすら叶わないように思える。
初撃で甚大過ぎるダメージを負ってしまい、相棒に肩を貸されてようやく立ち上がっている俺に、再び李の右手が伸びる。
「!」
――そしてその手首を、背後から途轍もない速度で駆け抜けてきた、アイリスの手ががっしと掴んだ。
「貴様、いつの間に……!」
「やーめなさい、ってーの!!」
李が、アイリスの脅威の身体能力に一瞬動揺した瞬間、少女の目がきらりと光る。
全身に満遍なく巡らされていた身体能力強化の魔素のほぼ全てを腕に集めたアイリスは、ついさっきの意趣返しとばかりに李のことを背負い投げた。
ごく僅かとはいえ生まれた隙。流石の武人もこれは回避しきれず、アイリスのスイングで宙を舞う。
大した距離ではないが、少しばかり彼我の位置が離れた。




