コンクリ<鉄<<<<<拳くらい強い①
「……ねぇ、どうして生きてるんだい? キミを強制送還させてから、五十年くらい経ってるよね。チキュウ人の寿命って百歳かそこらだろ? 十年はオーバーしてるじゃないか」
今なお呼吸が落ち着かず咳き込む俺の横で、冷や汗を流したサンファが李と名乗った男性へ呼びかけた。
「決まっているだろう。貴様への怒り、憎悪。それが今日まで儂を生かしたのだ!」
実年齢より遥かに若々しく見える男性は、見なくても分かるほどの殺気をその身から溢れさせた。
サンファと李との間に挟まれる形になった俺は、まだ満足に動かない身体を動かし、どうにかその場から離れようとする。
「ディアナ! ユーハのことお願い! こっちはアタシが!」
『は、はいっ!』
アイリスがディアナに呼びかけ、李に向かって突貫した。突き刺さっていた壁から離れ、人の姿へと戻った相棒が、俺に手を貸すべく駆け寄って来る。
「……失せろ、小娘!」
背後から接近するアイリスを見ることもなく捉えた李は、少女の頭の位置目掛け左の掌を振り回した。
勢い良く後方へ振り切られた掌は、しかし空を掴みそのまま過ぎ去る。
「こん、のぉっ!」
アイリスの十八番、身体強化の魔素によって底上げされたスピードで、急加速のスライディングを仕掛けた金髪の少女が、潜り抜けた男性の腕の下から再びのタックルを繰り出した。
その場まで駆けてきた勢いのままに、李を俺の傍から引き離そうという狙いだろう。
だが、彼女の狙いとは裏腹に、老練な男性はその場から微動だにしていなかった。
「っ……! ウソでしょ……!?」
アイリスは全力で李の身体に力を込めている。
額に浮かぶ汗、途切れ途切れの声が、そのことを知らせている。
しかし。
「邪魔だ!」
「キャア!」
李は再度左手でアイリスの肩を掴むと、無造作ながらも力一杯と分かる速度で放り投げた。
後方の壁、先ほどまでディアナが突き立っていた位置とほど近い所まで飛ばされたアイリスが、コンクリの壁に背中を強打する。
女子とはいえ、人一人を片手で振り回す膂力。
それも、己のいる位置から数メートル離れたところまで、容易に投げ飛ばせるほどの。
純粋な筋肉量というだけでは説明が付かない。
この人は、俺より遥かに多くの心素を持ち、それを使いこなしている……!




