揃いのアイテムって戦隊ヒーローしか持ってない気がする⑰
たった一発の拳だけで放たれたとはとても思えない程の衝撃に、夜剣を取り落としそうになる。
俺は両の手で強く夜剣の柄を握り締めると、全霊の力を込めて老練な男性の拳を振り払った。
同時に後方へと下がった男性は、夜色の刃を直撃した右の拳を軽く振っている。手首の調子でも確認しているのか、俺の目には何ら異常は無いように見える。
対して俺の両手は、接触時の振動が未だ色濃く残り、痺れて万全とは言えないような状態になっている。もしまた同様の攻防があったら、とても剣を握ったままではいられないだろう。
ていうかなんでこんなことになってんだ! 昨日もそうだけどコイツのせいで無用な争いに巻き込まれている気がしてならないぞ!
「おいそこのクソイケメン野郎! さっさと起きて事情を説明するなり、説得するなりしたらどうなんだ!」
俺は対峙する男性から一切視線を逸らさないまま、今なお地面から立ち上がる様子の無い魔術師へ声を張り上げる。
責められた異界の魔術師は、観念したかのようにゆっくりと立ち上がると、珍しく弱気な声音で答えた。
「いいかいユーハ君……これは冗談でも何でもない、正直な提案だ。逃げよう」
「は? それって、どういう……」
「彼はキミより強い。当然、僕よりもね。比喩じゃなくそのままの意味で……このままだと、死ぬよ」
その物言いが、今までの魔術師の発言の中で最も真剣そのものであったために、つい俺は男性から視線を外して斜め後ろのサンファをちらりと見てしまった。
そしてその隙を、彼の男性は見逃さなかった。
再び、視線さえも追い切れないほどの速度で俺に肉薄し、今度は左の肘鉄を食らわせてくる。
不意を突かれた攻撃に、俺はほとんど反射で反応した。避けるべきと思っていた、夜剣での防御を行ってしまったのだ。
「ぐっ……!?」『う、あっ!?』
握力が弱まっていた俺の両手では、先の拳以上と思われる一撃を受け止めることは、とても叶わなかった。内側から外へ開いていくような軌跡で放たれた男性の肘鉄が、夜剣を俺の手から軽々と弾き飛ばす。
「ディアナ――」
「邪魔だ」
回転しながら中空を飛翔し、駐車場の無機質な壁に突き刺さった相棒を呼ぶと同時、俺の腹部に男性の掌底が叩き込まれた。
しかしその瞬間は、俺は痛みも何も感じなかった。ほんの少し体が宙に浮いただけで元の位置に戻ったことも合わせ、首を傾げて腹を擦る――
「~~~っ!!??!? ガ、ッハ!! ゴホッ!」
その時、遅れてやって来た衝撃が腹部から全身に伝わり、俺は蹲って咳き込んだ。
涙に滲む目に、コンクリの床を赤く染め上げる、吐血痕が映る。
「生きているか。ならばそこで大人しくしていろ。この外道を締め上げてから引導を渡してやる」
「あ、んた……! いったい……なに、もの……!」
冷血な目で俺を見下ろす老練な男性。尋常でない痛みと止まらない吐血に蹲りながらも、俺は問いかけた。
「儂か? 儂は李俊杰。拳を振るうことしか能の無い、只の無頼漢よ」
右手の骨をコキコキと鳴らし、見ている方が凍てつきそうな冷徹さを湛えた瞳で、男性はそう告げた。




