揃いのアイテムって戦隊ヒーローしか持ってない気がする⑧
俺の制止の声も虚しく、金髪の少女が押し開けた扉は全開になり、室内の様子が露わになる。
……五畳無いほどの空間に、二人の人物の姿があった。
一人はライブ開演前に対面した、ルナちゃんのお父様、白風祭賀氏。
そしてその隣で、ライブ衣装のままパイプ椅子に腰かけているのは。
肩にかかるくらいの栗色の髪に、髪と同色の人懐っこそうな丸い瞳。
数か月前、初めて出会った時の姿と、つい数分前までステージで光り輝いていた姿とが、目の前で重なる。
そう、そこに居たのは紛れもない、アイドル白風瑠奈、その人だった。
ルナちゃんは、急に開いたドアに驚いたのか、愛らしい丸い目元を殊更に丸くしてこちらを見て、茫然とした様子で固まっていた。
やがて、その小さな口が、震えながらゆっくりと開く。
「アー、ちゃん?」
「そーよ。五年ぶり、かしら? 久しぶりね!」
「……っ!」
そんな屈託ない返答を聞いたルナちゃんは勢いよく立ち上がると、腰かけていた椅子が倒れるのもそのままに、五年越しの再会を果たした友人へと駆け寄り、力の限り抱きしめた。
「わっ! ちょっとルナ! 今のアタシ、ライブではしゃぎすぎて汗臭いわよ!?」
「いいの! そんなの私も一緒だもん! ……久しぶりっ、アーちゃん!」
涙混じりで、それでもなお微笑んで再会を喜ぶ姿に中てられたのか、アイリスの目も心なしか潤んでいるように見える……ライブ直後で感受性が高まってるせいで、俺ももらい泣きするかもしれない。
決して広いとは言えない楽屋内で、抱き合った状態で二回転ほどその場で回ったあと、金髪と栗色髪の少女はようやく離れた。ルナちゃんは目元を拭うと、静かに様子を見守っていた俺たちの方へと向き直る。
「ありがとう。アーちゃんとまた会えたのも、キミのおかげ! 信じてたよ!」
「エッアッハイ。シノザキユウハトモウシマッス」
急に向けられた百億ドルも顔負けの眩しい笑顔に、俺はそんな脳死返答しか出来ない。浄化されない健闘を評価してくれてもいいと思う。
だって今目の前にいるのは俺の推しだぞ!?
推しアイドルが! 俺に向かって!! 話しかけてるんだぞ!!!
これで衝撃を受けないほうが無理ってもんだろ!!!
誰に向けてでも無く、そんな現実逃避染みた弁明をしている俺を、首を傾げたルナちゃんが不思議そうに見つめている。何ですかその仕草はやめてください可愛過ぎて死んでしまいます。
……って、ん? 信じてたってなんだ?
今更ながら、ルナちゃんの発したその言葉に疑問を抱き、徐々に意識が正気を取り戻していく。
しかし俺が問いかけるより早く、膝を折ったルナちゃんは俺の傍らに佇む相棒に声をかけていた。




