二度あったことを三度はさせない②
二、三話を済ませれば終わるとばかり思っていた俺は、向けられた敵意にちょっとしたパニック状態になっていた。
え、なんで警戒されてんだよ! そりゃ、普段なら王がいる部屋に空からこっそり降り立ったけども。
俺だよわかるだろ。いや自己紹介とかはしてなかった気がするけど敵じゃないよ。むしろアンタらのためにも働いてるっていうのに――
今すぐ下に降りて話をした方がいいのだろうが、警戒状態の彼らの前に不意に飛び降りようものなら、より不信感を得られてしまうに違いない。下手すればその場で迎撃されてもおかしくない。
あーもうどうしてくれよう!
いっそルナちゃんのシングルでも歌ってやろうか。あのバラード調のナンバーなら、どんなに昂ったやつでもその場に跪いて手を組み、つっと一筋涙を流すはず……ああでも歌うのが俺だと意味ないか!
そんな風に明後日の方向へ思考が転がりだした俺に、どこか冷ややかな調子の声がかけられた。
『マスター。おそらく月神舞踏状態であるがために何者かが識別できないのかと』
……あ。
その後、どうにか落ち着きを取り戻した俺は、全身を纏う夜色の鎧を解除したうえで、怒涛の勢いで玉座に押し寄せた兵士たちに無害をアピールした。
押し寄せた兵士の中には俺の召喚に立ち会った者も多くいたようで、服装と顔を見せたことで『魔術師の話術に気分を上げて落とされた少年』であることを思い出してもらえたようだった。
俺は、彼らを率いて玉座の間に突入してきた小隊長と呼ばれていた人物に、手短に魔晶回収の経緯を報告した。合わせて、少し休みたいので部屋の空きがないかと、このテラスに置いていったはずの俺の荷物を知らないかということも尋ねる。
小隊長は俺の話を聞いてから頷くと、玉座の間を出て左手奥にある客間を指示した。
俺のカバンはというと、あの魔術師サンファが意気揚々と言った様子で回収してしまったらしい。申し訳なさそうに謝る彼に、俺は不満を露わにしながらも「気にするな」と言うしかなかった。
あんのクソイケメン野郎……あとで文句言ってやる。
そうした細々とした用件を片付けている間、俺の傍らにひっそりと佇む少女……ディアナは、どこか居心地悪そうに俯いていた。
俺の全身を包んでいた月神舞踏を解除したことで、今の彼女は元の儚げな美少女の姿へと戻っている。
差し込む朝日に銀の長髪が反射し、彼女だけどこか別の世界の住人のようだ。
居心地が悪いのもわかる。何故って、俺と話をしている小隊長以外の兵士全員が、一様に彼女をしげしげと眺めているからだ。
遠慮なく向けられる好奇の視線に耐えかねてか、ディアナはやや俺の背中の方に身を寄せ、兵士たちとの間にかすかなバリケードを構築している。




