揃いのアイテムって戦隊ヒーローしか持ってない気がする⑤
いやホント二人には申し訳ない……と俺が凹み続けていると、先ほどのプロデューサーが、もう一人スーツ姿の男性を引き連れてやって来るのが見えた。
新たにやって来た男性は、四十代後半くらいだろうか。白髪交じりで灰色がかった頭髪をオールバックにしており、年齢の割にがっしりと引き締まった体格をしている。
身のこなしも落ち着いているし、格好いい大人の男性……ナイスミドルといった感じだ。マリーネで出会ったベインさんを思い出す。
ナイスミドルの男性は遠目に俺たちの方を見ると、一瞬驚いたように目を見張り、しかし大きく表情を崩すことなく屹然としたままこちらに歩み寄ってきた。
「あっ」
その男性を見たアイリスが、同じように驚いた様子で声を上げる。
どうした? と俺が問いかける前に、二人が俺たちへ声をかけてきた。
「お待たせしたようで申し訳ない。話は伺っています……さて。久しぶりだね、アイリス君」
「はいっ! お久しぶりです、サイガおじ様☆」
「え」
急にアイドル然とした立ち居振る舞いで返答したアイリスに、俺は衝撃を隠せない。
プロデューサーと呼ばれた男性が連れて来た、おそらく彼より上の立場であろう人間と、異世界の住人であるアイリスが……まさか、知り合いなのか!?
壮年の男性はスタッフ男性に手早く説明すると、俺たちの入場を許可してくれた。「責任は私が持つ。何事も起こらないだろうがね」との超絶ウルトラカッコいい一言に、俺もディアナもポカンとした表情で驚くばかりだ。
腑に落ちない様子ではあるが、ともあれ了解してその場を去ったスタッフ男性を見送り、壮年の男性が俺の方を向き直る。
「君は、初めましてだね。私はこういうものだ」
「ど、どうも」
慣れた様子で胸ポケットから名刺入れを取り出し、中の一枚を俺に手渡してくれる男性。
対称的に覚束ない手つきでそれを受け取った俺は、そこに書かれた文字を読み、目をこれでもかと言わんばかりに見開いて、硬直してしまった。ディアナもつま先立ちでそっと俺の肩にもたれ、名刺を覗き込む。
そこには『シロカゼプロダクション代表取締役社長 白風 祭賀』の文字。
つまり。
「ルナちゃんの、」
「お父様……!?」
「そうよ?」
口の端に穏やかな笑みを湛えて頷く男性を前に、開いた口が塞がらない俺とディアナ。何でもないような顔で頷くアイリス。
「積もる話はあとにしよう。ステージが終わったら楽屋に来てくれるかい。話は通しておく」
「アッハイ」
「では、ライブを楽しんでくれ」
「アッハイ」
驚きの余りbot染みた返答しか出来ない俺を余所に、ルナちゃんのお父さん……白風祭賀氏は、颯爽と運営本部の方へ戻っていった。プロデューサーの男性もその後に続く。
この時俺は放心状態にも近い形で、それでも自分たちの席に向かって歩いてはいたのだが、そのせいで思い至らなかった。
背後のサンファが、苦々しい顔つきでずっと無言のままだったことに。




