嵐に宵闇咲く⑧
そんな状態へと変わったというのに、それでも認識出来る笑みを浮かべ、ハーシュノイズが俺たちを指差した。何らかの攻撃魔法か、と警戒した俺が身構えたかと思うと。
「合格ッ!!!」
「……はい?」
発されたのは攻撃でも拘束の魔法でも無く、その巨大かつ端的な一言だった。
全く要領を得ない謎の発言に、俺は夜色の鎧の奥で、思いっきり眉を顰めて首を傾げる。
「ああいや、合格は違うな。何つうのが正しいんだ? ……ギリ合格! ん? ギリアウト!? いやアウトは駄目な時のヤツか。だよなァ?」
それ俺に聞くのかよ。
……及第点って言いたいんだろうか。合格ラインには達してないけど、まあ将来的には可能性はあるみたいな。
「あーソレ! ソレだ! お前キューダイテンな!!!」
「いや意味わかんないんですけど」『あの、それはどういう……?』
話が一向に進まない。その姿から発される異様なプレッシャーと発言との温度差に眩暈がしそうだ。
もはや普通にツッコミを入れてしまっている俺に加え、ディアナまでもが青年の真意を図るべく、話の先を促している。
しかしハーシュノイズは、俺やディアナの呼びかけに答える様子もなく、中空に浮かんだまま腕を組んでうんうんと頷いているだけだ。話が聞こえていないのか、聞いたうえで敢えて無視しているのか……
しびれを切らしそうになる俺の前で、頷き続ける神位魔術師が独り言のように口を開く。
「初めは『ひとっつも理解してねーなこのガキ』と思ったが、実際に戦り合えばなかなかどうして機転が利きやがる! 特に黒い鎧姿になってからは目覚ましかったなァ! 覚えとけよその感覚を! お前の授かった神位が、どういうときに一番力を発揮するのかをよォ!!」
……? 分かるようで分からないな。いったい何が言いたいんだコイツ。
ていうか何しに来たんだコイツは。なんだか知らないけど、確かサンファへの八つ当たりに来た、みたいなことを言ってた気がするのに、本来の目的はそれじゃないのか?
そんな諸々のことを追求しようと思った矢先、宙に浮かぶ神位魔術師が、更にその高度をゆっくりと上げていることに気付く。その妙に腑に落ちた表情は、お前まさか!
「おい、待――」
「じゃあなガキ! いや、黒神位!! あのクソ狐に、『次会った時に全力で殴ってやる!』って言っときな!!!」
その言葉を最後に、ハーシュノイズは途轍もない速度で天空へ飛び立った。その姿は分厚い嵐の雲に紛れ、あっという間に見えなくなる。
術者である人間が去ったためか、周囲を取り巻く嵐の勢いが、目に見えて弱まっていくのが分かり、俺の胸中に満ちていた緊張感も薄れていく。
「……何だったんだ、今の」
『さ、さあ……?』
『……んー……まー、いいんじゃないー……?』
そして屋上には、何一つ合点のいかない、俺と相棒二人だけが残されたのだった。




