二度あったことを三度はさせない①
ほどなくして、トレイユ国の王城の姿が大きくなってきた。
荘厳な城壁と城下街の家々を、夜明けの陽光が色鮮やかに照らし出していく。
月神舞踏で上空から見てみると、トレイユ国は理路整然とした街並みを有していた。
俺が飛び出した城を中心に、東西南北の四方向に主街道と思われる道が伸びている。その街道に沿うようにして、住民の家や様々な店舗が区別なく並んでおり、それが四角い外壁の方までびっしりと連なっている。
そんな街並みを眼下に俺は空中を疾駆し、城壁に数多くあるテラスの内の、最上階から一階分下のものに狙いを定めた。
確かあそこが、無情にも俺が喚び出され、強制労働を言い渡された玉座のテラスだったはずだ。
夜が明けたばかりの頃合いだし、あの偉そうな女王サマと胡散臭い魔術師も流石にいないだろう。
そこらを歩いてる兵士に軽く報告して、少しだけ寝て、すぐに次の特異点とやらに出発したいところだ。あの二人には会わずして。
そんな算段をたてながら、音もなくテラスに着地する。部屋の中は、果たしてあの玉座の間で違いなかった。別に懐かしくもないけど。
中に入ろうとして、ふと足元を見て、そこで気付いた。
「あれ? ……無い」
『マスター? 何か無くされたものでも?』
「俺のカバンが無い」
学校からの帰宅途中にこの世界に召喚された俺は、霊山に向かう際に不要と思われた、学習用具などが入ったバックをここに置いていったはずだ。
この世界に馴染みのないものだから、誰かに回収されてしまったのだろうか?
魔晶回収の報告以外に聞くことが増えてしまった。まあ大したものが入ってるわけでもないけど……
そうして、テラスにてしばし思い悩む俺の耳に、何やら喧騒のような声が聞こえてきた。
外に視線を向けるも、街には特に変わった様子は見られない。
『マスター。城内の兵士が騒いでいるようです』
「あ、下か」
ディアナの言葉にポンと手を打ち、テラスから下を覗き込んだ。
……三人ほどの兵士たちが臨戦態勢でこっちを見ていた。
二人は槍をこちらに向け、じっと視線をそらさない。一人は警戒している様子で後ずさったかと思うと、すぐに身を翻えして城の中へ駆け込んでいった。増員の応援を呼びに行ったと見える。
すごくピリピリしているようだ。こっちまで空気が張り詰めているのが伝わってくる。いかにもな警戒態勢だ。
敵襲か? またぞろあの竜のような奴が現れたのだろうか。
彼らの視線の先、俺の頭上を確かめるべく振り向いてみる。
何もない。
あれ?
首を傾げ、再び兵士たちの方を見やる。俺が見ると同時にどこかびくっと体を震わせる兵士二人。
そして頭上を振り向く。やはり何もない。
兵士を見る。振り向く。何もない。
……警戒されてるの俺か!




