嵐に宵闇咲く③
「クソがぁぁあ!」
思うように一撃が決まらないことに業を煮やしたハーシュノイズが、連撃にしては前後の繋がりが酷く荒い蹴りを繰り出してきた。
今だ!
初動の荒さ故に見切りやすかったその蹴りを、俺は脇に抱え込む形で受け止め、青年の足を固定させる。
「なっ! テメ、離しやがれ!!」
「お望み通りにしてやるよ……!」
俺はハーシュノイズの足を抱え込む腕に力を込め、足場代わりにしていた校舎の壁で旋回した。
「ん、のぉっ!!」
腕力に遠心力を加えた勢いのまま、ハーシュノイズの身体を上空へと放り投げる。
少しずつ遠ざかる青年の表情は、しかし歪んだ笑みを湛えていた。それはそうだろう。これといってダメージを与えたわけでもないし、ハーシュノイズ程豪快なスイングを決めたわけでもない。
俺の狙いは、少しでも距離を離すことだったのだから。
「ッ!?」
俺の右足に集束する心素を感じ取ったのだろう、ハーシュノイズの顔に警戒の色が浮かぶ。
でも、もう遅い。
右足を爪先までピンと伸ばし、一個の『槍』の如く中空へと突き出す。
「『黒刺夢槍!!』」
伸ばした右足から、無数の刺持つ黒槍が放たれた。
槍は離れ行くハーシュノイズと同じ軌跡を辿り、過たず追随する。
……発動してから気付いたが、黒刺夢槍、なんかデカくなっているような。こないだサンファと戦った時より、縦にも横にも大きさが増している気がする。
加速した思考の中そんなことを考えていると、遂にハーシュノイズに追いついた槍が、嵐吹きすさぶ空中で激しく炸裂した。
バヂッ!! というスパーク音が耳をつんざき、まるで黒い雷が広がるかの如く、頭上で黒槍が弾ける。
間近で轟いた爆音と同時に、足元の校舎から小さくは無い悲鳴が上がった。
「……今のはキいたぜ、クソガキがぁ!!!」
生徒らのものと思われる悲鳴を容易に上回る怒号を張り上げ、ハーシュノイズが三度突貫して来る。
その身体には黒刺夢槍によるものだろう裂傷が散見されるが、決して大きなダメージではないことが、その動きの機敏さから察せられた。
性懲りもなく雷を纏う右手を差し出してきたかと思った矢先、眼前で稲光が閃く。
「くっ……!」
至近距離での不意打ち。俺は閃光の全てを正面から受け止めてしまい、視界がホワイトアウトする。
「ッ、ラァ!!」
「がっ!?」
窮した隙を容易く突かれ、無防備な腹部に雷宿す拳が叩き込まれた。




