嵐に宵闇咲く②
ハーシュノイズの膂力は思った以上に強く、重厚な嵐に突入しても尚、俺の吹っ飛ぶ勢いは微塵も揺るがない。
マズい、このままだと……!
錆び付いたネジを締めるように強張った動きで、ギギギ、と首を捻り、進行方向である背後をどうにか視界の内に納める。
そこには、徐々に差し迫る校舎の影。
今の勢いのまま、受け身も取れずに学校にぶつかったとしたら……全身の骨がバラバラに砕けるだろうことは想像に難くなかった。
その時唐突に、明日という晴れの日を病院のベッドの上で過ごす未来が脳裏によぎった。
……それだけは。それ、だけは――!!!
「――さっ、せるかあああああああ!!!」
俺は一瞬でも夢想してしまった最悪の結末を振り払うべく、がむしゃらに身体を動かした。全身に巻き付いている縄を無理やり引きちぎるような動作で、中空で五体を大きく広げる。
ぎらついた瞳で後方の校舎を睨むと、バク宙の要領でその場で空を蹴り、縦に反転した。
両脚で校舎の壁に着地し、びりびりと膝に伝わる衝撃を、その場で地団太を踏んで強引に彼方へ追いやる。
「ディ、ア、ナッ!!」
『はっ、はい!』
痛みに絶え絶えな俺の叫びに答え、右手の剣が再び夜色の粒子へ解ける。
瞬く間に俺の身体を包み込んだ粒子が、鎧姿へと変わった。
『魔装形態、月神舞踏への変換を完了しました!』
変身完了を告げる相棒の声を胸に、俺は頭上をキッと見据える。
そこには。
「生身で上手く着地したじゃねーのッ――!」
抜け目なく追撃に迫って来ていた、ハーシュノイズの歪んだ笑顔が目と鼻の先に出現していた。
つい数刻前、俺を投げ飛ばした時と同じ雷光を纏う右手が、今度は顔面を狙って突き出される。
しかし、今の俺はさっきの俺とは違う!
月神舞踏に変じたことでディアナとより深く共有された俺の知覚が、迫り来る青年の右手の動きを、先ほどよりも遥かに鮮明に捉えていた。
コマ送りとまではいかずとも、少しずつ俺の破壊に迫る雷の右手をくっきりと視認する。
その腕が完全に伸びきる寸前、俺は右足の裏に展開した夜色の魔法陣を蹴った。目の前に伸びる右腕に巻き付くような軌跡を描き、瞬時にハーシュノイズの背後に躍り出る。
「っどりゃあっ!」
直後、急速に背後へと転回し、がら空きの浅黒い背中へ蹴りを打ち込む。
「がッ!? ……ンの野郎ォが!!」
攻撃を躱された上に反撃まで受け、怒りのボルテージが上がったハーシュノイズが、肩と目を吊り上げてまたも襲い来る。
しかし俺は努めて平静を保ち、法則の見えない拳と蹴りの雨あられをいなし続けた。
両の腕で、持ち上げた脛で、掌で、雷と暴風宿す青年の四肢を受け流す。




