再びの召喚特典③
「なんだ篠崎……休んでた間、どっかのブートキャンプにでも行ってたのか?」
その割には細いまんまだけだどなあ、と俺の身体をじろじろと見まわす体育教師。
なわけないじゃん……そのネタも一昔前だし。
通り過ぎる他の男子生徒たちも、皆思い思いに勝手なことを口にしている。
やれ、悪の組織に改造されただの、宇宙人に洗脳を受けてるだの、ドーピングなコンソメスープを開発して摂取してきたんじゃないかだの……それもちょっと古くないか。
好き勝手言いやがって、と思いはしたものの、異世界に召喚されて強化されました、とどの与太話とも似て非なる原因である故に口を噤まざるを得ない。
居辛い……早く終わんねーかな。
フィリオール先生の言ってた障害ってこのことだったのだろうか。
居たたまれない気持ちのまま地面に腰を下ろした、その時だった。
「ん? 風が出てきたな」
体育教師が、空を見上げて呟いた。つられて俺も頭上を仰ぐ。
青空に雲が散らばる、文句なしの快晴が広がっている。一見何の異変も無いように見えるが、言われてみれば、先ほどより雲の移動速度が速いような気がしないでもないが……
と、天空だけでなく、地上の俺にも分かるほどに風が強まってきた。
そこまで長くはないはずの俺の髪もたなびくくらいの風速になってきている。
『マスター、警戒を!』
ディアナ?
脳裏に響いた相棒の声が、ここ数日無かった強い意気を孕んでいたことに、思わずびくっとする。
『この風……自然のものではありません! 強い魔素を含んでいます!』
それって、どういう――
「っ!」
「おわっ。こりゃあまずいな」
俺がディアナに言葉の真意を問うより早く、風がさらに勢いを増す。
体育教師の間延びした声音とは対照的に、空には急激に雲が立ち込め、日の光が地上に届かなくなる。
渦を巻くように集い続ける雲を見上げ、俺はきゅっと目を凝らした。
そして直後、その雲に集結する尋常でない量の魔素に息を呑む。
この魔素量、平時のスプリングロードゥナに勝るとも劣らないぞ……!
「うわっ」「おいこれヤバくね?」「せんせー、もう終わりにしましょーよー」
グラウンドに風が吹き込み、砂煙が舞い始める。
竜巻が局所的に発生した例は、昨今の日本では珍しくない。周回し続けていた男子生徒たちも足を止め、体育教師へ授業の切り上げを持ちかけている。




