ボスモンスターの攻略法⑧
『この世界の生物であれば皆、魔素を感じ取る能力を生まれながらに宿しています。あのときの言葉は、魔晶個体へ向かう大量の魔素の流れを感じ取ってのものです』
なるほど道理だ。魔素を感じ取る感覚がないと魔法が使えないだろうしな。
「じゃあやっぱり、目で見えるっていうのは普通じゃないのか」
『はい。おそらくマスターを置いて他には無い能力でしょう。こと、この旅においては非常に有用な能力であるかと』
さっきのディアナの話にもあったが、できるだけ魔物との直接的な戦闘は回避し、魔晶だけ回収してトンズラするのが一番効率的なやり方だ。
だがそのためには、魔晶が特異点のどこにあるのか。魔物が所持していたとして、体のどの箇所にどのように保有しているのかがわからないといけない。
それらが文字通り一目瞭然であるということは、何よりのアドバンテージになるだろう。
「なるほどわかった。思ったよりずっと早く終わらせられそうだな」
『ええ。このディアナも、及ばずながら尽力いたします』
ディアナっていう強力な仲間もできたことだし、余裕をもってルナちゃんのライブに備えられるかもしれない。いいぞ……この世界に来てようやくポジティブな兆しが見えてきた!
『それにしても、魔素が見える瞳とは本当に稀有な例ですね。以前の世界でも、マスターには他者には見えないものが見えていたのでしょうか』
――調子に乗り出した俺の気持ちは、彼女の何気ない言葉に打ちのめされた。
全身が冷水をぶっかけられたように温度を失っていく。
胸の奥に、押し込めたはずのどす黒い感情が再び湧き出してくる。
そうか。
アレが見えるからか。
過去の光景がフラッシュバックする。
自身を取り囲む複数の人影。
浴びせかけられる罵詈雑言。
普通は見えないようなものが見えるから。
この世界でもそうなのか。
冷たい視線。いわれのない悪評。
根拠なき罪。降り注ぐ暴力の嵐。
誰も俺を知らないこの世界でも、また同じ目に遭うのか――?
『マスター?』
脳内と胸中を埋めつくす暗く冷たい影を、響く声が振り払った。
自身を呼ぶ声に、暗闇をさまよっていた意識を取り戻す。
『マスター? どうかされましたか?』
「いや……なんでもない」
カラカラの喉が絞り出した正規のない声に、自分自身びっくりする。
『……もしや、先ほどの私の発言がお気に障りましたでしょうか。申し訳ありません』
遠慮がちな声音で謝罪の言葉を口にするディアナに、「気にしないでいい」と返答する。
今は鎧の姿であるはずなのに、眉尻を下げ、畏まった表情の彼女が思い浮かぶようだ。
ディアナに悪気はない。俺が気にしすぎているだけなのだ。
……今は考えないようにしよう。この目が、ルナちゃんのライブのために役立つとわかっただけでも僥倖じゃないか。
気を取り直し、俺はトレイユの城へと向かって空を駆けた。




