憂鬱な金曜日⑬
巾着袋からは、赤青黄緑紫黒白橙……色とりどりの、一見ビー玉にも見える球体がジャラジャラと転がり出てきた。一色につき一つということは無く、赤の玉が三つもあったり、微妙に濃さが違うが明らかに同系色と思われるものが複数あったりする。
『これは、ガラス玉……っ!? ち、違う!? これ、全部……! マスター!?』
さすが相棒。一目見て気付いたか。
そう。今フィリオール先生が取り出したこの玉たちは、全て天然の宝石や鉱石を真球の形に加工したものだ。有名なルビーやらサファイアなどをはじめ、石英や水晶といった比較的ありふれたものから、なんとダイヤまであるらしい。俺には見ただけじゃ違いが分かんないけど。
あまりに宝石らしからぬ扱いのため、ほとんどの生徒や先生は、これが宝石とは気づいていないとか。
出すとこへ出せば一財産築けそうなこの球体を何に使うのかというと……
「さーて、お悩みは何ですか? オキャクサマ♪ なんでも占っちゃうよ~ん」
ぺろりと小さく舌を覗かせ、先生が手を叩いた。
これが、ぐうたら司書フィリオール・グランディットが解雇されない理由。
『超絶的中確立の宝石球占い』である。
その流れはいたって単純で、机などに予め複数の宝石球を転がしておき、その中から気になった玉を選び、転がすというもの。その時の転がり方とか、ぶつかった宝石の色や種類などで結果を占うらしい。ちなみに、選ぶ玉は何色でも、何個でもいい。
今日に至るまで何人もの生徒先生が占われ、あるときの数学のテストのヤマを全問的中したこともあれば、来週の体育祭は晴れるか、気になる先輩への告白は上手くいくか、無くしたシャーペンはどこに行ってしまったのか、などの幅広いジャンルの疑問をピタリと言い当てている。
占われる側からすれば、一体どこをどう見ればその結果が弾き出されるのが疑問なほど法則性がつかめないのだが、当の先生本人にしか分からない何かがあるらしい。
ちなみに、金銭に関する質問は受け付けていない、とのこと。
……それで、今彼女は俺の何かを占わんとしている。
もっと言えば、俺の何かを探ろうとしている。
何を? 俺は弁当の中身を淡々とパクつきながら、ジト目でフィリオール先生を睨む。
「そりゃあもちろん、この一ヶ月行方をくらませていた篠崎クンが何をしていたのか……を聞きたいところだけど」
その発言と胸の内を見透かすように細められた視線に、一瞬ドキリと鼓動が跳ねた。
言葉にはしなかったが、ディアナもまた一瞬で警戒心を抱いたのが伝わってくる。
「ここは遠慮しとこうかな」
「……んじゃあ、何を占わせたいんです」
「そうだねぇー。無難に今日の運勢にしとこっか」
がくっ。
……さっき感じた警戒心を返せ!
と言えるはずもないので、俺は渋々箸を置くと、目についた水色の玉を一つ摘まみ上げた。




