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憂鬱な金曜日⑪

登校時からずっとこの調子だった。朝から昼まで同じ話題とは暇な奴らめ。

心の中で毒づき、俺は弁当を持って席を離れた。数々の視線を背中に受けたまま廊下へ出る。


『マスター、どちらへ? 食堂ですか?』


いや、食堂はちょっとな。教室以上に人が多いだろうし、環境は変わらないよ。


『では、校舎の外に? も、もしや昨夜見たドラマのように屋上ですか……!?』


……いや、期待させてしまったみたいで悪いけど、屋上は確か閉鎖されてるから。

外でもない。ちょっとアテがあるから。


ディアナに返答しながら俺は早足で廊下を進み、とある扉の前で立ち止まる。


その扉には、その部屋が何の役割の部屋なのかを示すプレートが存在しなかった。少し先にある別の扉には、『図書室』と記載されたプラスチック製のプレートが掲げられている。


俺はきょろきょろと周囲を軽く見回し、人通りが少なくなったのを見計らって、横引きの扉を軽く上へと持ち上げる。


その瞬間、内側でカタン、と錠が開く感覚が手に伝わる。


『えっ』


困惑するディアナをそのままに、俺はごく自然に――自分ではそう思っている顔ぶりで――扉を開けて中に滑り込んだ。


室内は、やや埃っぽかった。

電気がついておらず、人の気配はない。分厚い暗幕にも似たカーテンが窓の三分の二ほどを隠し、残りの三分の一を白い薄手のカーテンが覆い、外の光を届けている。


教室の半分ほどの広さの空間には、大量の本が整理もされず乱雑に積み上げられていた。

ベロニカのアイリスの工房(へや)を彷彿とさせる光景だ。


『ま、マスター……ここは?』


「一応、図書準備室? みたいなところかな」


人一人いない閉鎖空間に移動したことから、ディアナへの返答を口に出す俺。


右手に顔を向けると、そこには入ってきたものの他にもう一つ扉があった。あの扉の向こうは隣接する図書室の受付裏にある、小さなスタッフ用スペースに繋がっている。


この部屋はかなり前に書庫代わりに使われていた部屋らしいのだが、最近は蔵書が増えた関係で、別のところに正式な書庫が用意されている。


新しい本は続々とそちらに運び込まれる一方で、図書室内のスペースで図書委員や司書の先生の仕事は事足りるため、この部屋は特に整理もされずそのまま放置されているのだそうだ。


図書室側の扉にはしっかり鍵が下りており、そちらは戸を動かした程度では到底開かない。

しかし、年季が古いせいなのか、廊下側の引き戸は軽く動かしただけで錠が開いてしまうのだ。普段は突っ張り棒で内側から物理的に封鎖しているそうだが、日中は開けてくれている(・・・・・・・・)のさ。


『開けてくれている、ですか……?』


「そう。まあ、来ないかもしれないし、紹介は後で――」


部屋中央の机の上を整理し、埃っぽい椅子に腰かけながらそう口にした時、図書室側の扉の錠がガチャリ、と開く。そこから、頭をポリポリと掻き、一人の女性が姿を現した。


「……ん? んんん?? あれあれあれ、三十日と十一時間と四十三分ぶりに見る顔だ! 久しぶりだねぇ、篠崎クン!」

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