憂鬱な金曜日⑩
今の、俺とディアナが一体の状態だからだろうか。ディアナの知覚も俺のそれに寄っているのかもしれない。視覚で捉えられるまではいかなかったみたいだけど。
ともあれ逃げきれてよかった。あそこから動く様子は無かったところを見ると、さっきの幽霊は地縛霊的なものだったのかもな。商店街を次から通る時は気を付けないとな……
『さ、マスター。思わぬ事態ではありましたが、気を取り直して学校に向かうとしましょう』
「……ソウデスネ」
……ちょっと忘れてたのに思い出しちゃったよ。
ディアナに悪気は無いんだろうけど、否応なしにテンションが落ち込んでしまう。行きたくねーなぁ……
やるせない気持ちを一挙に溜め息にして吐き出し、俺は学校への道を再びとぼとぼと歩き始めた。
『――スター? マスター、聞こえておいでですか?』
……ん、え? あれ、ディアナ呼んだ?
死んだ魚のような目で黒板を見ていた俺の脳内で、相棒の声が響き渡る。
『ああ、マスター、よかった。先ほどから呼びかけていたのに、お返事が無かったものですから』
教室に入るや否や、無心で無言で無表情のままでいたせいで、脳死状態だった。
そうでもしなければ、周りからの好機や嫌悪の視線を全部真に受けなきゃいけなくてしんどいからなあ。
今朝教室に入った時の一斉に向けられた視線には、予想はしていたけどやはり相当気圧された。
その後のヒソヒソと話す声が、そんな筈は無いのに、すべて俺を苛むものではないかと邪推してしまう程に。
単純に、一ヶ月不在だった奴が登校してきた珍しさ、というだけの視線もあったんだろうけどな。
ゴメン、ディアナ。今何時だ?
『あと五分ほどで、今の時限の授業が終わるところです』
じゃあもう昼休みか。教室に入ってからいつの間にか四時間近く過ぎている。その間ずっと席に座っていたからちょっとお尻が痛い。
授業はさっぱり聞いておらず、無心で板書するだけのマシーンと化している俺だが、一方でディアナは割と熱心に授業を聞いているようだ。
いいぞディアナ。その調子で後で俺に教えてくれ。
『マスター……いけませんよ。ご自身でも学んでおかないと』
試験前には頑張るよ。試験前にならないと頑張らないとも言えるけど――あ。
そんな返事を返した途端、壁のスピーカーから授業終了のチャイムが鳴り渡る。がちがちに固まった身体を、骨を鳴らしながら立ち上がり、ぎこちなく礼をする。
『お昼休みですね、マスター。それでは、渚様に頂いたお弁当を』
や、待ってディアナ。
『はい?』
そのまま席で昼ご飯を食べると思っていたのだろう相棒の言葉を、脳内で制止する。そのうえで、ちらりと横目で周囲を流し見た。
……相も変わらない不躾なヒソヒソ声と、遠慮なく向けられる排斥を願う視線。
こんな中で飯なんて食えるか。




