憂鬱な金曜日⑦
「はい、お弁当。行ってらっしゃい!」
「行ってきまーす……」「行ってまいります!」
夕食の席で登校という沙汰を下された次の朝。玄関を出る時点で既にテンションダダ下がりの俺は、何故か対照的に気合充分といった様子のディアナと共に、我が家を後にした。
「じゃあ、行くか……」
「はいっ。それでは、失礼しますね」
マンションを出る前に、ディアナには早々に俺の内側に潜ってもらう。あまりに堂々と歩いて、ディアナの出自を聞かれでもしたら事だからな。
どこぞの魔術師のように適当なことをまくし立てられるほど弁は立たないし、かといって、正直に異世界から来たと言ったとして、流石に両親のように信じてもらえるとも思ってないし。
夜色の粒子と化したディアナが身体に浸透したのを確認すると、俺はスクールバッグと学校指定のジャージが入った袋を担ぎ直した。そう……時間割が変わってなきゃ今日体育あるんだよな……ヤだなあホントもう。
『さあ、マスター。参りましょう。今日を乗り切れば、明日は瑠奈嬢のライブ当日ですよ』
「……そうだな。よし、そのためだと思って乗り切るか」
とぼとぼと歩き始めた俺の脳内で、相棒の声が励ましをかけてくれる。流石はディアナ。学校に行かせるためとは分かっていても、それでも俺のやる気が出る言い回しを分かっている。
重々しい足をどうにか通学路に乗せ、動かし始める。
さて、今まで通りなら、通学中もルナちゃんのナンバーをヘビロテするのが俺の登校風景なのだが。
『マスター。マスター、あれは何でしょう』
「あれは……消防車だな。どっかで火事でもあったのかな」
『あっ! マスター! あの、小さな子供たちが一様に背負っているあれが、らんどせる、というものでしょうか!』
「ああ、うん、そうだな。よく知ってるな」
周囲のあらゆるものに興味を惹かれ、声をかけてくるディアナ。ある程度の地球知識を学んでいるとはいえ、伝え聞いただけの情報と、実際に目にするのとでは全く違うのだろう。
ややはしゃぎ調子の相棒に応対しながら歩く通学路は、何故かその道中がとても短く感じられた。それこそ、俺ともあろう者がルナちゃんの曲を聴く間もないくらいに。
日課を行えてない違和感は多少ながらあったが、まあ、なんとも微笑ましい様子の相棒を見るに、とても楽しそうだし、これもまた良し、だな。
俺自身も自覚しないうちに軽い足取りで進んでいると、通学路途中にある商店街に差し掛かった。
俺が初めてルナちゃんに出会ったCDショップのある、個人的に思い入れの深い場所だ。




