独白⑨
ふ、と私が一息つくと、遥仁様の隣に腰を下ろした渚様もまた、お茶を飲み、美味しそうに息を吐いた。
私一人お茶を頂いてしまって良かったのだろうか。先にお風呂を済ませ、今頃書斎で、明日のサンファ氏のトレーニングスケジュールを組んでいるだろう、アイリス様を思い返す。
あとで、アイリス様に差し入れる飲み物を頂けないか、渚様に伺おう。私がそう内心で頷いていると、一口お茶を含んだ遥仁様が、ゆっくりと口を開いた。
「さて……まずはお礼を言わせてほしい。有り難う、ディアナさん。うちの息子が世話をかける」
そう言って頭を下げた遥仁様の姿に、今度は私の方が目を丸くしてしまう。
「えっ! そ、そんな、お礼を頂くようなことはしていません……!」
「いいや、悠葉は、君たち二人の協力無しには帰って来られなかったとまで言っていた。こんな言葉だけでは足りないくらいだよ」
「で、ですが」
「言わせてちょうだい、ディアナちゃん。アナタも、アイリスちゃんも、私達のところへ悠くんを帰してくれた恩人なんだもの。本当に、ありがとうね」
戸惑い続ける私に、渚様による更なる追撃が加わる。
「わ、分かりました! そのお言葉、確かに頂戴致します! ですからどうか、頭を上げてください、お二人とも!」
忙しなく両手をあたふたとさせる私を見て、どうにかお二人は顔を上げてくれた。その表情は、なぜか少しだけ楽しそうで……ひょっとしてからかわれたのだろうか。
多少はその思惑もありそうだが、先程のお二人の言葉そのものは嘘ではないと分かる。
ともあれようやく姿勢を戻してくれた姿に、私も落ち着きを取り戻した。
「もう、ディアナちゃんなら気付いているかもしれないけれど、あの子……悠葉は、一人で抱え込むところがあってね。なかなか、私たちを頼ってくれないんですよ」
「…………」
机の上で手を組んだ渚様が、神妙な面持ちを湛える。それに私は、ただ頷いて返した。
私はマスターから聞いている。魔素を肉眼で捉える瞳……神眼を持つマスターは、チキュウでは幽霊が見えたこと。その特異性のために、周囲から迫害を受けていたこと。
そして、そんな辛い日常生活を、ご両親には隠して過ごしていることを。
渚様が口にしたのはおそらくそのことだろう。
マスターも、気取られることが無いよう注意を払ったのだろうが、どこか隠し切れない部分があったのかもしれない。




