独白⑧
「お風呂、頂きました……あ、お帰りなさいませ、お父様」
「あ、ああ、ただいま。ディアナ……さん」
エーテルリンクから転移して二日目の夜。お風呂を済ませた私がリビングへ戻ると、ご帰宅されて遅めの夕食を摂っている、マスターのお父様……遥仁様と目が合った。
お父様と呼んだ私の言葉に目をぱちくりとさせ、気恥ずかしそうに応える姿がマスターそっくりで、思わず頰に笑みが浮かんでしまう。
「? どこかにお弁当でも付いてるかな……」
「いえ、ごめんなさい。先程のお姿が、とてもマスターに……ユーハ様に似ていたものですから」
口元を手探りで確認し始める遥仁様へ、謝罪も込めて返答する。
それを聞いた遥仁様は、四角形の眼鏡の奥で目を細め、面映ゆい表情を浮かべた。
「そうか……ディアナ、さん。お茶でもどうかな」
遥仁様は右手の箸を置くと、掌を見せるように右手を差し出し、自身の対面の席を私に勧められた。
「あ、そんな、お気遣いなく……」
「母さん、ディアナさんにお茶を」
わざわざご用意頂くなんて申し訳ない、と私が遠慮する間も無く、キッチンの方から「はーい」という渚様のお返事が聞こえてきた。
これ以上遠慮するのも逆に失礼だと思い、私は指し示された椅子へ腰掛ける。そうして少しすると、三人分のグラスを乗せた御盆を手に、渚様がリビングへ入ってきた。
コースターの上にグラスが置かれ、氷がカラン、と音を鳴らす。
「頂きます」
短く告げ、グラスを手に取って傾けた。
初夏に差し掛かったチキュウの気候と、お風呂上がり故に火照った身体を、冷たいお茶が心地良く潤していく。




