憂鬱な金曜日⑤
そのままぶつくさと呪詛を吐き出し続けるサンファ。肝心の、どうして新たな魔装形態に変身出来るようになったのか、を聞けてないんですけど。
追及しようとした俺の脳内で、またも相棒の声が響き渡る。
『マスター、覚えておいでですか? エーテルリンクからチキュウへと転移する際に聞こえた声のことを』
ああ、あの……神位挫きし者よー、とかって言ってたやつのことか。覚えてる。
ディアナの声音が、息をひそめるような、眼前のクソイケメン魔術師には伏せるようなものであったことを察し、胸の内で返答する。
俺の返答は正しく相棒に伝わったようで、ディアナもまた、二人の意識の中で会話を続けた。
『はい、その声のことです。あの声は、私たちに神位名……黒神位という名を与えると言っていました。おそらくあの時からです。この……言うなれば、ワンランク上の魔装形態を取れるようになったのは』
じゃあ、あの声の力でレベルアップした、ってことなのか?
『確証はありませんが……他に有力な根拠もありません。おそらく間違いないかと』
ディアナ曰く、今の状態は人間体と魔装形態の中間である夜色の粒子のまま、俺という一個の存在の中に間借りしているような、抽象的で概念的な状態なのだと言う。
これまでのように人の姿や、剣や、鎧の形を取り、何らかの独立した存在として世界に在るのでは無く。存在そのものは俺個人のものに依り、それでありながらも、ディアナという個を失わずに確立している……
なんだか小難しくて、聞いているだけで熱が出そうだが、要するに、俺という人間と、その存在が混ざり合いながらも、自分を失わず保ち続けられる、そんな状態なんだそうだ。
なるほど分からん。
……料理に入れた隠し味が、大元の味を損なわずに、でも確かに加えられてることを主張してる、みたいなことかな。
自分なりの解釈で何とか理解しようとしていると、どこぞの誰かへ呪詛を吐き終わったらしいサンファが、ジトっとした目つきを向けてくる。
「……ま、その状態なら別にガッコウとやらに行って差し支えないんじゃないかい。チキュウ人にしちゃ内包する魔素が多過ぎるように感じるけど、そんなのこっちの人間には分かりっこないしね」




