憂鬱な金曜日④
夕食後、食器類の片付けに向かった母さんと、その手伝いにアイリスが続き、俺とディアナ、絶不調といった様子のサンファの三人がリビングに残った。
席を立ち、俺の正面で直立するディアナにつられ、俺も立ち上がる。
「では、始めますね」
「……うん」
短く告げる相棒に、未だ半信半疑の俺は生返事で返す。
ディアナのことを信じていないわけじゃ無いけど……果たしてどうするつもりなんだろうか。
俺の返答へ銀白の少女は頷いて応えると、紅の双眸をそっと閉じた。
次の瞬間、少女の身体が夜色の帯へと解ける。
これまで幾度となく目にした、ディアナが魔装形態へと変じる際の光景だ。
帯は音もなく宙空へ向かうと、くるりと反転して俺のもとへ近付いてくる。
……まさかとは思うが、人間の姿じゃなくて、夜剣の状態なら大丈夫とかって話じゃ無いだろうな!?
ここに来てそんな可能性もあることに思い至ってしまい、一人でギョッとするが、どうにもディアナが変じた帯が向かっているのは、普段夜剣を携える俺の右手ではない。
それよりも、もっと低い位置へ向かっている……?
夜色の帯は、俺の足下に広がる影に重なったかと思うと、あたかも飲み込まれるかのようにするすると消えていった。
「えっ」
何事もなくディアナたる粒子が視界から消え、思わず目を瞬かせる。
かと思った矢先。
『いかがですか?』
「おわっ!? えっ、ちょ、どうなってるんだ!?」
脳内に、鈴を転がすような相棒の声が響き渡り、変な声を出してしまった。
これも何度も覚えのある、魔装形態時のディアナの声と同じだ。しかし、今彼女は、夜色の剣でもなければ、身体を覆う鎧姿でもない。
戸惑い続ける俺の疑問を晴らしたのは、心底具合の悪そうな魔術師の声だった。
「……新たな魔装形態というヤツだよ」
「あ、新たな魔装形態だって?」
「まあ、厳密には違うけど、キミにはこう言った方が分かりやすいと思ってね。本来なら、製造時に設定された魔装形態以外への変換は有り得ないけど……まったく忌々しいことに、奴の波長が強まってるじゃないか……腹立たしいったらないよ……」




