女王と女王と少女魔装③
「なあ、まだか?」
もう何度問いかけたか分からない言葉を、改めて少女二人の背中に投げかける。とはいえ、帰ってくる返事は変わらないだろうが。
「ええいもう少し待て! あとちょっとのところまで来ているんだ!」
そら見ろ同じ返事だ。
律義にこちらを振り返ったイルミオーネが放った、怒りと焦りの混じった言葉を聞き、スプリングロードゥナは盛大な溜息を漏らす。
それが一層の焦りを与えたのか、再び鍵の迷路へと向かう背中には、スプリングロードゥナ以上の苛立ちが溢れ出ている。
その一方で、もう一人の少女はいたってマイペースそのものだった。
「陛下ぁー、そっちの方に通せばいけませんー?」
「む。こうか……?」
「そっちじゃなくてぇー。こうですよぉー」
「お、おおお!? いいぞダリア! その調子だもっとやれ!」
お、なんだか順調そうじゃないか。スプリングロードゥナは、足音を殺して――普通に見ようとするとイルミオーネが頑なに隠し通そうとする――こっそり進捗を覗き見る。
……どう見ても鍵の迷路は半分も進んでいなかった。
だというのに、何故か金髪の王女はまんざらでもない表情で意気揚々としている。
「これで七割といったところか……なに、今の調子でいけばすぐに終わるとも!」
「……そうですねぇー」
翡翠髪の少女が無感情で返答するのも仕方ない。
三十分ほども取り組んで半分以下しか攻略できていないという事実と、正確な進捗を把握できていない主への落胆との、二重の苦痛が彼女を襲っているのだろうから。
「……よし」
スプリングロードゥナは、モチベーションを上げて再び鍵に取り組むイルミオーネを放置し、扉の横に伸びる壁の前へと移動した。石造りの壁に右手を触れさせ、目を瞑って感覚を集中させる。
予想はしていたが、周囲の壁にも魔素による結界が張り巡らされている。結界は、みっちり緊密な濃度で隙間なく展開されており、突破が容易そうな弱点部位なども無さそうだ。
――だが、随分弱い『鍵』だな。
肩に担いでいた槍を右手に握り締め、紅蓮に燃える魔素を纏わせる。
スプリングロードゥナの異変に気付いた少女二人に止められるよりも早く、焔纏いし槍を、壁に向かって突き出す。
「火尖槍・嵐燎纏!!」
至近距離で爆音が鳴り響き、凄まじい砂煙と瓦礫が撒き散らされる。
しかし黒髪の女王はそれをものともせず、ブチ開けた壁の穴へ足を踏み入れた。




