この子にしてこの親あり⑨
ディアナは、顔を隠そうと腕の中の枕を顔の前まで持ち上げ、そこで何かに気付いたようにハッとして、やり場のない枕を再度腕に抱きしめている。
……あんまりその枕を顔に近付けないでほしい。いや、俺が不在の間は母さんが洗ってくれてるんだろうけども、それでもこう、匂いとか、ね。気になるじゃないですか。
それで言うと、さっきディアナは既に掛布団の中に潜り込んでいたワケだけども。
あ、ひょっとして寝ようとしてたのか? それなら心地良さそうに、どこかとろんとした目になっていたのも分かる……寝入りそうなところを起こしちゃったのかもしれない。
「悪い、起こしちゃったな。寝ててもいいぞ」
「いっいえ、お気になさらず! ……これ以上この場を独占するのは申し訳ないと言いますか……完全に自分の欲望に従っただけなのが後ろめたいと言いますか……」
「……? まあ、眠くないならいいんだけどさ」
体を起こした状態で何事か呟くディアナ。気が済んだら枕は解放してやってほしい……
再び背後を振り向くと、落ち着いた様子のアイリスがルナちゃんの写真集に目を落としている。
そういえば、俺はエーテルリンクの文字は読めなかったけど、みんなは読めるのか?
平気で日本語喋ってるし、文字も大丈夫なのかな。
「ああ、読めないわよ?」
「え?」
その割には普通に読み進めてるように見えるけど……
「異世界転移の魔法陣に付与されてるのは言語理解だけなんだよ。それなのに本なんて読むかね、物好きな……」
「これくらいなら文字が読めなくったって分かりますー。アタシだってアイドルだもの」
未だ、アイリスの椅子代わりになっているサンファが説明と共に愚痴を漏らす。
つまり、エーテルリンクから地球へと転移を果たしたディアナ達にも、俺に付与されたものと同じ、異世界の言語が分かる魔法が発動した、と……んじゃあ、オマエが母さんたちにペラペラまくし立てることが出来たのは、学者だからとかじゃなくて魔法の効果だったんじゃねーか。
息を吐くように嘘を吐き出すコイツの舌、どうにかならんもんかな……
まあともあれルナちゃんのライブ当日まで、サンファはウチの両親やディアナ達とは一緒にさせらんねーな。
「お前の寝床は俺の部屋の床な。ディアナとアイリスは、父さんの書斎を使ってくれ」
「え、ちょっと待って。僕がそっちが良い――」
「わ、分かりました」「りょーかーい。あ、ルナの本いくつか借りるから」
この期間中の部屋割りを言い渡す。サンファの意見は示し合わすまでも無く封殺され、女子二人はそれぞれ、荷物を手に俺の部屋を出て行こうとする……
……待ってディアナその枕は置いてって!!!




