この子にしてこの親あり⑦
「……信じて、もらえるんだ」
父が発した言葉に、緊張感に満ちていた俺の心が解れるのが分かった。
安堵に和らぐ思考が、思い浮かんだ言葉をそのまま口から出していると、言った後に気付く。
ほとんど反射に近い俺の呟きを聞いた母さんが、ふふん、と少しだけ胸を反らす。
「あら、私たちを誰だと思っているの? あなたのお父さんとお母さんですよ」
「……母さんの言う通りだ、悠葉。お前はばつの悪いときに言い淀むことはあっても、嘘を吐くことはしない子だった。それはあの時から……いや、あの時も、だな。今も、変わっていない」
そしてそのことは、誰よりも自分たちが一番よく知っている。
そう語る父さんの言葉に、俺は目頭が熱くなるのを抑えきれなかった。
少し前まで抱いていた不安と恐怖が、跡形も残さず融解していく。
思わず目元を拭る俺を見て、微笑ましそうな表情を作る両親だったが、一転、父さんだけが再び神妙な顔つきに戻った。
「ところで……今のお前の話からすると、あのサンファという青年は相当な危険人物なんじゃないのか? 大丈夫か、お嬢さん二人と一緒にさせておいて」
やや声を潜めた父さんは、への字眉を作って俺の部屋の方を指差す。
俺が話し始めてから三十分程度が経過しているが、ディアナ達三人が待機している俺の部屋は、不気味なくらい物静かだ。
サンファの行動から魔素までもを制限する首輪。その効き目が間違いないのはアイリスが確認済みだから、心配ないとは思うけど。俺がそう答えようとした時、何故か母さんが父に向かって答えを示していた。
「あら、サンファさん? だったら、四つん這いになって金髪のアイリスちゃんに座られていましたよ。大人しく」
「……なんじゃそりゃ!」
母の言葉通りの状況を脳内で想像するのに、数秒かかったのはやむを得ないと思う。
どういう状況だよそれ! よくあの腹黒魔術師が大人しく受け入れてんな!
まあ、例の首輪という絶対的な弱みがあるせいではあろうが、それにしたって異様な光景だろうに……母さんは何も指摘しなかったのかな。
「そういう趣味の方なのかなって、特に何も言わないでおいたわ。根掘り葉掘り尋ねるのも失礼でしょうし……それよりも悠くん。あの銀髪の、ディアナちゃん、でいいのかしら。あの子の耳って本物よね!? ピコピコ可愛らしく動いていたし! ね、触ってみてもいいかしら!? ねぇ!?」
「……本人に許可を得てよね。お願いだから」
色々な意味で、エーテルリンク人たちへの順応度が高い母親に、父親と同時に溜め息を漏らした俺は、目を輝かせる彼女へそう言うことしか出来なかった。




