この子にしてこの親あり⑤
俺が少女二人の胸中を察している最中にも、魔術師の弁舌は留まるところを知らず、聞いている側が舌を巻きそうなほどの情報の怒涛を吐き出し続けている。その情報量の多さに、ついに真面目に耳を傾けていた母さんの目が回り始めた。
「――と、いうワケでですね。息子さんからお誘いを受けまして、こうしてまかり越したのです。何、数日で構いません。私と親類の二人をこちらに置いて頂きたいのです。ここは一つ、異文化交流の良い機会と捉えて下さればと」
母さんの様子を見て頃合と判断したのか、サンファはそう述べ、ようやく口を閉じた。途中から聞き流していたが、いつの間にやら滞在許可を得るための名分も語っていたらしい。
「は、はあ……それにしても、日本語がお上手ですね……」
「ええまあ。これでも私は神位級の……コホン、それなりの学者でありますのでね」
「…………」
必死にサンファの話を理解しようとする母さんに対し、父さんは腕を組んだまま無言で魔術師の顔を見据えている。胡散臭いコイツの本心を見抜こうとしているのか、その視線は鋭い。
が、サンファも慣れたもので、その顔に張り付いた裏のありそうな笑みは微塵も揺るがない。
腹の内を見透かそうとする視線などお手の物、といったところなのか。
やがて父さんも観念した様子で溜め息をつくと、肩を落として視線を俺へと向けた。
「悠葉」
「あー……うん。半分くらい嘘だけど大筋は合ってるから」
「えっ、嘘なの?」
「ちょっとキミ!? そこは分かっていても話を合わせるモノだろう!?」
本来なら話を合わせるべき、いわば協力者側である俺が反旗を翻したことに、思わず声が裏返るクソイケメン魔術師。俺は父さんにも似た短い溜め息を吐くと、静かに様子を窺っていたディアナとアイリスに向き直った。
「二人とも。コイツ連れて俺の部屋に行っててくれるか」
「……分かりました」「は、はーい。見張りは任せといてねっ☆」
俺の両親の前故かやや緊張気味のディアナと、言動がアイドルのものになっているアイリスへ、廊下の右手側にある扉を示す。
一方サンファは、以外にもすんなりと引き下がった。
「やれやれ仕方ない。お話はご家族にお任せするとして、僕は大人しくユーハ君の部屋を漁るとしようかな――痛いですごめんなさい冗談ですから」
すーぐにふざけたことを抜かすよなお前ってやつは!
肩に何度か拳を打ち込み、一応は撤回の言葉を絞り出させる。
「くれっぐれも目を離すなよ、二人とも!」
苦笑を漏らす少女二人に連れられ、魔術師のクソイケメン顔が扉の向こうへと姿を消したところで、再び、今度は大きな溜め息を吐き出した。




