こういうのも家出になってしまうのだろうか⑥
俺の足を縛り付ける迷いはもう一つあった。
それは、そんな両親であってもついに、俺を見放すのではないかという懸念だった。
俺は小さな頃から霊が見えてしまう厄介体質だったが、父母はいたって普通の人間であり、俺のように特異なものが見えるようなことは無かった。
住み慣れた土地を離れる際、俺もまだ幼かったということもあり、両親は俺が口にした『幽霊が見える』という話を理解し、受け入れてくれた。
でも今の俺はどうだ? 高校一年生。大人一歩手前だ。
今の俺が『異世界に飛ばされて、各地を旅しなきゃいけなかったんだ!』とそのままに伝えたとして、それを俺の両親は事実だと受け入れてくれるだろうか?
多感な時期故の空想、妄想と思われたり……ともすれば、気が触れてしまったと断じられてしまってもおかしくない。それまで味方だった家族が一転、俺を拒絶する側に回ってしまうのではないか。
俺はその可能性が恐ろしかった。
両親はそんな人間ではないと分かってはいる。だけど、もしかしたら……ゼロではない可能性を捨てきれず、その場で無言で立ち尽くす俺。
「おやおや、いまさら何を迷うことがあるんだいキミは」
――そんな俺へ最初に声をかけたのは、今日までの苦楽を共にした相棒でも、金髪の少女でもなく……ようやく息を落ち着けた魔術師だった。
四つん這いで地面へ向かって荒げていた息を整え、何事も無かったかのように立ち上がったサンファが、俺の目を正面から見据える。
「……お前がそれを言うのかよ。俺をエーテルリンクに軟禁した張本人のくせに」
「言うともさ。僕が言わなければ、ずっとここで無為に時間が過ぎていくだろうからね。この二人ではきっと言及出来ないだろうし」
恨みがましい俺の言葉を気にもせず、サンファが口の端を吊り上げた笑みで答える。
その返答に眉を顰めた俺がディアナとアイリスを見ると、二人はばつの悪そうな表情を浮かべていた。
……俺が何を考えていたのか、うっすら察していたのか。そしてそのことについて何を言うべきか言葉に出来なかった、ということらしい。
二人らしい気遣いを実感している俺へと、サンファが言葉を続ける。
「さてユーハ君。慰めの言葉と突き放す言葉、どっちを言ってほしい? ま、どっちをも求められても突き放す解答しかするつもりないんだけれどね」
「毎度一言煽らないと喋れないのかお前はっ!」
「まあまあそう怒らずに。さて、話を戻すけどね。ここでうじうじしてる暇があるなら、もう会っちまいなよ面倒くさい、というのが僕からのアドバイスだね」
……それアドバイスじゃなくてお前の心情では?




