ボスモンスターの攻略法③
集まった魔素は、ラグビーボールを思わせる形の氷塊に変化する。大きさはボールのそれとは異なり、一つ一つが米俵一つ分ほどはあるようだ。
それらがみるみるうちに増えていく。
目算で五十は越えた数があるかと思った矢先、氷塊の七割ほどが一斉に俺に向かって撃ち出された。
「ふっ!」
湖の水面上ギリギリに展開した魔法陣で一定の高さを維持しながら、横っ飛びで魔弾の群れを避ける。そうしている最中にも続々と氷塊は竜の周囲に沸き出で、尽きるどころか総数はどんどん増している。
氷塊の飛来する早さは問題ない。十分に避けきれる速度だ。これは……
『様子見、でしょうね』
「ああ」
俺の思考をディアナが引き継いだ。的を得た言葉に短く答える。
首長竜は膨大な魔素を用いて全身を強化した。それでもなお、この場が特異点ゆえに魔素は枯渇することは無い。であれば、同様に大量の魔素を用いた攻撃魔法でも仕掛ければ事は済む。
が、今の俺はディアナアーツという名の強化スーツを身に纏い、縦横無尽、立体機動に飛び回る小回りの利く敵になった。
とどめのつもりで放った水柱ビームの第二波を避けるにとどまらず、瞬時に接近してきた機動力をこそ警戒しての様子見攻撃なのだろう。肉体強化により、敵の攻撃に一撃で沈むことはすでに対策している辺り、なかなかどうして隙が無い。
そして、その行動は正しい。
俺は魔法使いじゃないからな。お前みたいなデカブツを一発で仕留める攻撃魔法なんて知らないし、知ってても使えない。警戒するのは機動力だけで十分さ。
――そしてそれ故に、それが最大の武器だ。
飛来し続ける氷塊を全て回避しつつそこまでの判断を終えた俺は、最後の確認に短く呟く。
「いけるだろ? ディアナ」
『……もちろんです、マスター』
言外の意図を、今回は幸いにも察してくれたようだ。ややあって、ディアナが沈黙を破った。
「じゃあ、行くぞ」
『御心のままに』
そのやり取りを最後に、俺たちは口を閉ざした。




