神位を超える心意⑪
一人で渋面を作って決めかねている俺に、不思議そうな表情でディアナが首を傾げている。
対し、何故か面白そうな目でジロジロと見てくるダリア。そんな面白い顔してるだろうか……
「ハイ出来ましたよっと。ほら、さっさと乗りなよ」
ああ疲れた、とでも言いたそうな顔で、サンファが大げさに肩をすくめる。戦っていた時の激情溢れる様子ではなく、癪なほどに見慣れた、飄々とした立ち居振る舞いに戻っている。
……この状態のこいつならまあ、ギリかな。
まあ、他にアテがあるわけでも無いし……むしろ、あそこまで感情を曝け出すほど何かに追い詰められていた、こいつにこそ必要なのかもしれない。
よし、とようやく俺が腹を決めたところに、タイミングよく兵士の一人がスプリングロードゥナに話しかけてきた。
「お、お持ちしました」
それなりに熟練と見える兵士が恐縮しながら差し出した両手には、サンファが付けていたものと同じ指輪が、なんと小さな山を形成するほどの量抱えられていた。目算でも三十個以上はある。
あの指輪一つに、魔晶の魔素四つ分が蔵されているとなると相当な量だ。サンファが最後に放った技に込められた魔素量に匹敵するかもしれない。
「ご苦労。さて、これだけあれば充分だろ。あとは戻していいぞ」
自分の城でも無いのに我が物顔で応じるスプリングロードゥナが、魔素の込められた指輪を右手で大雑把に鷲掴む。
「そら。妙な用途に使うなよ。分かるからな」
「信用が無いなぁ。流石の私も、この状況で逆らう程、命知らずじゃありませんよ」
「どうだか……おいユーハ、準備はいいぞ」
「あ、ああ。ありがとう」
一度精神操作を受けているからか、なかなかサンファに対する警戒心を緩めようとしないスプリングロードゥナ。まあ、それくらいの方が良いかもしれないよな。
サンファが指輪から魔法陣へと魔素を移し、陣が金色に輝き始める。俺と、ディアナと、アイリスはゆっくりと光の中に足を踏み入れる。
「じゃあな。結果的に、お前には世話になった。達者でやれよ」
「こっちこそ、いろいろどうも」
手をひらひらとさせるスプリングロードゥナ。見慣れたその仕草にどこか寂しさを感じつつ、頭を下げる。ディアナも丁寧に腰を折り、アイリスも感謝の言葉を述べる。
「あー、もういいよね? ハイ、んじゃあ元気でねー」
俺たちのやり取りを見ていたサンファが、強引に割って入ってきた。とっとと俺に去ってほしいのか、魔法陣が輝きを増していく。今にも転移が始まりそうだ。
「ああ、ちょっと待って」
「いまさら何だって……は?」
金色の光が視界いっぱいに広がり切る直前、俺は手を伸ばし、うんざりした顔のサンファの腕を掴んだ。
「ま、マスター!?」「アンタ何してんのよ!?」「な、おい、ユーハ、待て――!」
三者三様の驚愕を見せる女性陣と、その傍らで一人、面白そうに破顔するダリア。
そして、無言で俺の手を見続ける魔術師。
「悪い、スプリングロードゥナ。コイツちょっと借りるな」
黒髪の女王へそう言って手刀を切ると、視界の全てが金色の輝きで満たされた。




