神位を超える心意⑩
だろう? と目配せするスプリングロードゥナ。視線を向けられたクソイケメン魔術師は、気に入らない様子で鼻を鳴らしたが、以外にも素直に続ける。
「……まあ、そうだね。魔装形態を展開出来たとはいえ、まだ自我が表出して何分も経っていない。その眠気は覚醒してすぐに戦闘したことによる反動だよ。体調が安定するまで、武具のままでいるのが賢明だと思うね」
ま、それもじき馴染むだろうけど、と解説するサンファ。
今までの経験から、コイツの言うことを鵜呑みにしてしまって良いものか悩むが、一応設計者でもあるからな……ここは信用しとくか。
「リラ、辛いなら無理するな。ゆっくり休んでいいんだぞ」
「……ん……じゃあ、そうする……ね……」
尻すぼみになっていったその言葉と共に、少女の身体が桜色の帯へと解ける。
粒子は、俺の腰に下げられた鞘へと集まり、そこには見慣れた短剣が静かに収まっていた。
『おやすみなさーい……』
脳内に響き渡った一言を最後に、穏やかな寝息が聞こえてくる。次第にその寝息も遠ざかっていき、やがて静かになった。
今回の功労者である短剣を優しくポンポンと叩き、さてどうしたものか、と俺はふと思案に耽る。
このままだと余っちゃうな。リラがどれくらいで回復するかにもよるけど。
そんな俺を余所に、スプリングロードゥナが半ば強引にサンファを担ぎ起こしていた。
いよいよ異世界転移の魔法陣を準備させようとしているようだ。
サンファは盛大に溜め息をつきながら、渋々と言った様子でその場に魔法陣を描き始めた。
それを確認した黒髪の女王は、玉座の間の入口付近で遠巻きにこちらの様子を窺っていた兵士らに、大声で指示を飛ばす。
「おいそこのお前ら! この城のどこかに予備の魔晶か、その魔素を納めた媒体があるだろう! ありったけ持って来い!」
えっ。
おいおいこのクソイケメン野郎、あんな全力全開っぽい攻撃してきたくせに、奥の手まで取っといてやがったのかよ!
俺と同じ感情を抱いたらしいアイリスが、呆れにも近い表情で驚きを露わにする。
「そんなの隠してたんですか!?」
「そりゃあ、あるだろう。いざというときの予備戦力という意味でも、国としての奥の手という意味でもな」
「あーあー、次の召喚のための動力にする予定だったのになあ。こんな使い道をすることになるなんてなあ」
「ボヤいてないでさっさとしろ!」
ハイハイ、と言いつつも、ぶつくさと愚痴りながら手を進めるサンファ。こいつ結構余裕あるよな……
……あ、こいつという手も。いや、でもなぁ……うーん悩む。




