神位を超える心意⑤
リラも次第にオーバーリアクションになっていくんだろうか、などと考えていると。
「……かーさまにも、ほめてもらお……」
そう呟き、リラは撫でるのを止めた俺の手の下から、ディアナとアイリスの方へ小走りで向かっていく。
……ん? 今、リラ何て言った?
かーさま……あ、母様か。なるほど。
え。
リラの呟きの意味を理解し、そして何を言ってるのか分からなくなる俺の前で、桜髪の少女は、その小さな頭をある人物に向けて差し出す。
「……かーさま……リラ、がんばった……ほめて……」
「……へ? アタシ?」
差し出された金髪の少女――アイリスは、丁度ディアナとの回転を停止したところだった。
向けられる桜色の頭を見ながら自身を指差し、リラと、ディアナと、やや離れたところにいる俺とに、慌ただしく視線を泳がせる。
……リラの言う母様って、アイリスのことかー。
言われてみれば確かに、リラの本来の姿である短剣を制作したのは、ベロニカ国の宮廷魔術師であるアイリス本人だ。リラに、短剣だった時からの記憶も全て存在しているのならば、文字通り生みの親であるアイリスのことをそう呼ぶのも分かる気がする。
未だに状況を飲み込めていない様子のアイリスだったが、頭を差し出し続けるリラの様子に観念したのか、とりあえず撫でることにしたらしい。
「あ、ありがとね! ホント助かったわ!」という感謝の言葉と共に、わしゃわしゃと豪快に少女の頭を撫でるアイリス。しかしリラは、口の端に満足そうに笑みを浮かべているから、雑な撫で方でも気にならないようだ。
「よう。やったな」
リラたちの光景にまたも微笑ましさを感じ、遠目に見ている俺に、スプリングロードゥナが歩み寄ってきた。
その表情は、絶賛戦闘中の玉座の間に入って来た時から一切変化の無い、不敵な笑みを湛えたままだ。
「おかげさまで」
「こっちの意図が伝わったようで良かったよ。本音を言えば賭けではあったがな」
「えっ」
そんな自信満々みたいなカオしといて、イチかバチかの勝負をやらせたのかよ!
もしバチの方を引いていたらと思うと……止めよう。想像したくない。
溶岩に飲み込まれそうになる自分の姿を一瞬空目し、険しい顔つきになった俺を見て、黒髪の女王は、「まあそう邪険にするな」と手をひらひらとさせる。
「賭けとは言ったが、まあ九割方上手くいくと思っていたさ。所持者は人並外れた心素を持つお前だし、そもそもの土台に魔晶鋼が使われていたからな。私との戦闘時点で既に、お前の心素を受け止め、共鳴することが出来る構造だった。あとはその効果を促すために魔晶鋼で更なる肉付けを施して、共鳴して得た意識が表に出るように術式を組んだだけだ」
時期が来れば目覚めていたさ、と何でもないように言うスプリングロードゥナだが……要するにそれ、俺の心素に反応して短剣に意思が宿ったから、それが形を取るようにしたってことだよな。
じゃあリラは、日本で言う付喪神的な存在だったのか……
三週間前後の短期間で物に意思が宿るレベルで干渉した俺の心素もちょっと恐ろしいが、その意思が自我を表出させられるように手を加えたスプリングロードゥナもいよいよヤバいな。凄いを通り越して、ヤバい。




