神位を超える心意④
夜色の十字波動は溶岩を跳ね除け蹴散らし、大量の響心魔装たちにまとわりつかれているサンファの身体を捉える。
かつて、類似した三角形の波動を受けたスプリングロードゥナは、そのままの勢いで背後へ吹き飛ばされ、壁に衝突したが、今回は違った。
四音・闇夜神路と呼んだ十字の波動は、サンファの身体に直撃すると、着弾の衝撃で周囲の魔装たちを弾き飛ばした。その後一瞬、瞬きほどの僅かな凪の時間がその空間を満たし――
「ぎ、ガあああアアァァッッ!?」
荒削りの岩石の壁に頑強な金属塊を強引に擦り合わせたような、耳を塞ぎたくなる甚大な音が鳴り響き、十字の衝撃がその場で多重に炸裂した。
何回、何十回と繰り返し襲いかかる波動は、何者も寄せ付けない威力をその周囲へ響き渡らせ……数秒後に唐突な沈黙が訪れる。
直撃を受けた魔術師は、少しの間、天を仰いで茫然と立ち尽くしていたが、やがて、繋がっていた糸が切れた人形のようにうつ伏せに倒れ込んだ。
それと同時、弾き飛ばされた魔装たちもまた、一様に膝を折り、その場に蹲っていく。彼らを支配していたサンファの意識が途切れたことにより、戦闘命令が解除された……んだよな、きっと。
っていうことはだ。
「……か」
「か、勝った! 勝ったわよ、ディアナ! やったぁーーー!!」
「は、はいっ! やりました! 私たち、やったんですね!」
俺が勝どきの声を上げるより早く、夜剣状態を解除したディアナとアイリスが、手を取り合って笑顔ではしゃぎ始めた。勝利の喜びがよほど大きいのか、満身創痍のはずのアイリスも、その痛みを忘れているかのようだ。
はしゃぐタイミングを逸してしまった俺は、スプリングロードゥナに勝利した時よろしく、両手を繋いでくるくると回る少女二人を見ながら微笑む。
その隣に、盾から再び人間の姿へと戻った桜髪の少女が静かに佇んでいた。
「リラ、ありがとな。リラがいなきゃ勝てなかった」
「……えへん……マスターに、ほめられた……」
ふわふわな桜色の頭を撫でる。そう言う割には眠たげな視線のまま大きく表情が変わらない。出会った当初のディアナを思い出すなあ。
今でも普段は、召喚者の従者たろうと凛とした姿勢でいてくれるディアナだが、この一ヶ月を通して、随分いろいろな表情を見せてくれるようになったと思う。今もアイリスと一緒に見せている笑顔もその一つだ。




