ボスモンスターの攻略法②
曖昧な焦点を必死に定め、第二撃を警戒する。が、予想に反して首長竜からの追撃は無かった。
その理由は、竜を見ればすぐに分かった。
竜の身体が『変貌』を始めていたのだ。
ぶるぶると体を小刻みに震わせながら、巨体の隅々まで尋常でない量の魔素が充実していく。
各所に魔素が満ちるに連れ、ぬめりとした光沢を放っていた外皮が、それを形成する鱗の一枚一枚が、微細かつ精緻な形状の氷鱗で覆われる。
全身にくまなく、それでいて動きを制限しない程度に氷の鱗が行き渡り――最後に、額の魔晶を覆うように鋭い氷柱が、仕上げと言わんばかりに天へと突き上がる。
それを認めた首長竜が、自身も天を仰ぎながら、一際大きな雄叫びを轟かせた。
少し離れたところにいる俺にも、その叫びによる大気の震えがビリビリと伝わってくる。
『魔晶個体、魔素吸収による氷鱗を生成。それと同時に、吸収時より並行して行っていた肉体強化術式を完了しました』
「なるほどね……」
ディアナの告げるアナウンスに、一人納得する。さっきの俺のパンチであいつが大したダメージを受けていなかったのは、その肉体強化とかいうやつのせいだったんだな。
「……ん? ディアナさんや。強化に気付いてたなら教えるか止めるかできたんじゃ?」
『申し訳ありません、マスター。てっきり先の攻勢は、威力を抑えて手数で追い込むものかと。その方が、大規模術式を防ぐには適していますので……あの様子では、その手は使えませんね』
首長竜の変わりようを鑑み、冷静に評価するディアナ。少々嫌味たらしく漏らした俺は見事に論破されてしまった。すいません。定石を知らずに攻め立てた俺が悪かったです。
『いえ、マスターのせいではありません。やはりまだ響心率が低いことが一番の原因でしょう。もっと響心率が高ければ、言葉を交わさずとも、互いの真意を把握して行動できるはずですから』
ああ、施設を飛び出す前にも思ったが、俺が口に出していない言葉をディアナが理解していたのはそれでか。
ディアナの言によるなら、響心率とやらが上がれば上がるほどお互いの深層心理を察する……あるいは認識することができるそうだが、ゆくゆくはアイコンタクト以上に、それこそ反射のような無意識下での活動・行動が可能になったりするのかもしれない。
『マスター。敵個体の攻撃です』
などと思考を巡らせていた俺は、再びディアナの声で正気に戻った。
見ると、首長竜の周囲に、複数の魔素が球状に収束している。




