夜と共に駆ける者⑪
見られた方が震えあがりそうな殺気を放つ瞳を一身に受けつつも、スプリングロードゥナは不敵な笑みを湛えて軽口を叩いて見せる。
「苦戦しているようじゃないか、心魂奏者。ここらで投降してはどうだ?」
「……天壌紅蓮ともあろう者が、戦況の分析も碌に出来ないほど落ちぶれていたとは驚きだ。想定外の苦戦を強いられたのは貴様の方だろう? もう小指の先ほどの魔素しか残っていないくせに」
くそ、冷静じゃないように見えてそういうところはしっかり見抜きやがる。
姿を見せたときから俺も気付いていたが、今のスプリングロードゥナはもうほとんど魔素が残っていない。俺たちと戦った時に使っていた攻撃魔法を、一発でも使えば底を付いてしまいそうな程度の量だ。
「おや、バレたか! なーに、心配しなくていい。私は手を出さん。お前を倒すのは……あいつらの仕事だからな」
にかっと笑って片目を閉じ、俺たちの方を指すスプリングロードゥナ。
戦場において最も知られてはならない事実を言い当てられたというのに、言い当てられた張本人はそのことを全く気にもしていない。それこそ、小指の先ほどにも。
近くの壁に槍と背をもたれさせると、スプリングロードゥナは腕を組んだ。その様子に、戦闘に参加する意思がないというのは本当らしい、とサンファも判断したようだった。
「そうして余裕ぶっていればいいさ。あいつらの次は、炎闘神の系譜を絶やしてやる……来い、お前たち!!」
そうサンファが叫ぶと、俺とアイリスの周囲にいた魔装たちが一斉にサンファの下へと集まり始めた。
続々と集う魔装らに、膨大な量の魔素が注ぎ込まれていく。
「心核を二つ持っていたり、実現不可能と言われた共心魔装機構の魔装を従えていたり……なんだ、オマエの幸運は? 神に愛されてるとでも言うのか?」
自分で発した言葉だというのに、「神に愛され」という単語に酷く不快な表情を見せるサンファ。
その不安定な精神状態でも、周囲の魔装たちへの魔素供給に滞りは無い。どころか、多すぎる……異常なほどの量が注ぎ込まれている。
『あの魔素量……かつての魔晶回収時の魔素も全て使っているに違いありません!』
「魔装たちの心核の鼓動も、さっきまでとは比べ物になんないわ……あれ、決めるつもりよ」
「…………」
魔装たちは、サンファの下に集うと共に、クソイケメン魔術師の身体にまとわりつく。続いて到着する魔装たちが、既にしがみついている魔装たちの上から上からどんどんと絡みつき、遠目には、歪に膨らんだ廃棄物の山のような、邪悪なシルエットを形成している。
しかしそこに集束し続ける魔素と心素の量は、ちらと見ただけで明らかに俺たちのそれを凌駕していた。




