夜と共に駆ける者⑩
「せぇ、のぉっ!」
着地と同時に反転したアイリスが、未だ俺の上にのしかかり続ける響心魔装たちへと夜色の波動を放った。距離があるためにほとんどの魔装が回避してしまったが、俺を押さえつける人員が減ったという点では狙い通りだ。
今、だっ!
闇夜神路にも負けじとしがみついていた二人ほどの魔装を全力で引きはがし、ようやっと俺は自由の身となった。
即座に体勢を立て直し、再びの拘束に遭う前にディアナとアイリスの下へ駆け出す。
アイリスもこちらに駆け寄って来てくれており、部屋の中ほど辺りで合流することが出来た。
「アイリス、無事か!」
「なん、とかね……! あー死ぬかと思った……」
合流するや否や足元がフラフラと揺れるアイリス。やはり、先のサンファの魔法によるダメージは決して軽くないみたいだ。近くで見ると、青痣の浮かんだ肌や歪んだ切り傷が、より一層痛々しい。
足元が覚束ないアイリスの肩を支えていると、闇夜神路で立ち昇る砂煙の向こう。玉座の間の入口から見知った顔が現れた。
「お、生きてるなお前ら」
「スプリングロードゥナ!」
黒髪の女王は、朝の通学時に近所の子供に声をかけるような気軽さで玉座の間へと足を踏み入れてくる。
ここに来たということは、トレイユの女王との戦闘に無事勝利したということなのだろうが、そのあまりに気負わない振る舞いは、ちっとも戦闘直後であると感じさせない。
ていうか気を付けろよ! そこ、すぐそこにクソイケメン野郎まだいるから!
砂煙内の魔素には、動揺からくるのだろう揺らぎは見えるが、戦意を失っている様子では決してない。間際の砂煙にちっとも警戒する素振りを見せないスプリングロードゥナへと、俺が警戒を促すべく声をかける前に。
「共心魔装機構……! あの奇人どもめ、完成させていたとはな……ッ!」
眉間に更なる深い皴を刻み、忌々しい表情でこちらを睨むサンファが砂煙を振り払った。
予想はしていたが、不意を突いた結果になったアイリスの攻撃も、全く堪えていないように見える。
マルチデバ……? マスター以外の人間でも響心魔装を行使できる仕組みのことを言っているのだろうか。おそらくディアナを造った工房の人間に対してだろう悪態を吐いたサンファは、新たに加わった黒髪の女王へと険しい視線を向けた。




