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夜と共に駆ける者⑧

破絶断層(ブレイクアウト)!」


サンファが式句を唱え、指を揃えた左手を袈裟懸けに振り下ろした。身構えるアイリスの足元の床が盛り上がり、水面に沸き立つ泡のように破裂する。


「きゃあっ!」


「アイリス!」『アイリス様っ!』


まずい、直撃だ!


爆風に巻き上がる少女の身体に、砕けた石造りの床の破片が容赦なく食い込む。


空中に投げ出されたアイリスは、強い勢いのまま床を転がり、慣性に従って停止したその場で蹲ってしまった。その身には痛々しい打撲痕が、遠目のここからでもわかるほどにくっきりと浮かび上がっている。


「ハッ。いくら運動が得意だからってね、のぼせ上がっちゃいけないよ。君が定位魔法を使えないって事実はなーんら変わらないんだからね」


蹲って動かないアイリスへ一歩一歩近付きながら、サンファが口を開く。いやらしくも、わざとらしくも、己の接近を知らせるかのように、杖の石突を音高く床で打ち鳴らしながら。


定位魔法。今しがたサンファが行使したような、効果がこれと定まっている、名のある魔法のこと。


アイリスはこれが使えない。


出来るのはせいぜい、その魔法の原動力でもある、魔素(マナ)そのものに属性を宿し操るくらい……サンファが最果ての地(エーテルエンド)でアイリスへ言い放っていたことを、俺は蘇った記憶の中で思い出した。


アイリスは、サンファや、スプリングロードゥナのような攻撃魔法を使えない。


それは即ち、敵の攻撃に対する迎撃手段が無いことを意味する。


サンファはそれが分かっていたから、神位魔術師である自分が相手なら、アイリスに対抗する術が無いということが明確だったから、俺とディアナを引き離したんだ。


「サンファ……!」


決死の力でもがくも、起こせるのは上半身程度。それもすぐに抑え込まれ、満足にアイリスの方を見ることも叶わなくなる。


「今更気付いたところで遅いよ! 唯一の攻撃手段でもあるお前たちを引き離した時点でこの光景は決まっていた! そこで指を咥えて、お仲間が殺されるのを見ているがいいさッ!!」


ようやくこちらを向いたサンファの顔が、歪な歓喜を窺わせる笑みを浮かべた。振り上げた杖に、倒れ臥す少女に向けるには多過ぎる魔素が集められる。


『アイリス様っ! しっかり……しっかりしてください!!』


ディアナの懸命な呼びかけにも、アイリスが応える気配は無い。


くそ! どうしようもないのか!


せめて……せめてディアナだけでもアイリスの下に行けたら――


――いや待て。


「それだ……! 行くぞディアナ!」


『マスター? 何、をっ!?』


ディアナが生命回路(アライブライン)を通して俺の考えを察するより早く、俺は行動に移る。

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