ボスモンスターの攻略法①
俺の強化パンチを食らって倒れた首長竜は、身を起こしたかと思うと尋常じゃない量の魔素を吸収し始めた。
甲高い嘶きとともに上半身を反らし、額の菱形をした魔晶が光を放つ。
その量たるや相当なもので、俺の目に映る範囲だけでも、施設の壁まで俺を吹き飛ばした水柱の、優に倍以上の魔素が竜のもとに集っている。俺の背後の方からも吸い上げているとすれば、水柱発射時の三倍、いや四倍はくだらない量だ。
『マスター。魔晶個体が、凄まじい量の魔素を集めているようです。おそらく大規模な魔法術式を発動させる前段階かと思われます』
「やっぱそうか……」
黒い強化スーツ状態のディアナの声が脳内に響き渡り、俺の思い描いていた予想を固めた。
あの水柱ビームを越える威力、規模の攻撃が繰り出されると見ていいだろう。
なら、そんなの待ってやることは無い!
まだ必要なだけの魔素が集まっていないのか、首長竜の体勢は変化が無いままだ。
今のうちにまた一発食らわせてやる。
水面に触れない程度にギリギリの位置で展開していた魔法陣の上で、膝を曲げる。
そして、『跳躍』の意志を強く描いて魔法陣を蹴り、俺は再び虚空を駆けだした。
数メートルほど向こうで魔素をかき集め続ける竜に向かって疾駆し、瞬く間に距離を詰める。
「おりゃあ!」
二度目の右ストレートも、竜の左頬にクリーンヒットした。
格闘技どころか、体育の授業以外ではろくに運動もしない生徒だったが、今のパンチがしっかり決まったことはなんとなくわかった。
まあ二回目だし。思いっきり走ってきた体重も乗っかったような気がするし。
「……え?」
だから、ほんの少し顔が斜めに向いただけで止まった、竜の姿を見て固まってしまった。
身じろぎしただけの首長竜の瞳が、じろりと俺のことを睨みつける。
おかしいだろ。さっき、こいつを倒れさせるくらいの威力だったじゃないか。
俺を油断させるために、わざと芝居を打ったのか? 野生の生物の癖に、そんな知能があるのか――?
『マスター!』
逡巡する俺を、響くディアナの声が正気に戻した。トリップしていた意識が現実に引き戻され、眼前の事実を脳に伝える。
「ぶっ!」
大きくしならせた竜の首が、俺の身体を頭から強烈に打ち据えた。今度は俺の方が、湖に向かって真っ逆さまに落下する。
「く……っそ!」
水面に叩き付けられる前に何とか姿勢を立て直し、小さな魔法陣を展開。首長竜から離れる形で湖の上を跳躍する。
なんつー威力だ。強い衝撃を頭に受けて、まだ目に火花が飛び散っている。視界が定まらない。




