夜と共に駆ける者④
右肩から射出する夜剣から、棘持つ黒槍が放たれる。
接敵しようとしていた魔装たちが立ち止まり、その場で迎撃に臨む。
彼らの限定魔装が十人十色の光を宿し始めた。心技を放つための心素を溜めているのか。
でも……俺たちの最大攻撃はそんなヤワじゃない!
魔装たちが手に手に放った遠距離型の心技と思われる波動を、黒刺夢槍は悉く弾き飛ばした。幾分スケールが削がれたようにも見えるが、夜色の槍はその勢いの大半を維持したまま、標的たる魔術師の下へ向かう。
「役立たずが……!」
眼前で迎撃に失敗した魔装たちへそう吐き捨て、サンファが右手の杖を黒刺夢槍へと向けた。
その前へ、二人ほどの魔装が姿を現し、両の掌を正面の黒槍へと向ける。
「核殻・碁碁」
杖から放出された魔素が二人の魔装へ流れ、ビクンとその身を震わせた。
彼らが両腕を身体の前に構えた途端、殻のような形の防御膜が展開される。
直後に被弾した黒刺夢槍が炸裂し、耳を塞ぎたくなるような痛烈な轟音を響かせた。
「……フン。威力だけはなかなかのものだね」
着弾地点に立ち昇る砂煙をかき分け、無傷の魔術師が姿を現す。
その足元には、身を挺して奴の盾となった魔装二人が横たわっていた。
「お前……!」
「……? ああ、僕がコレらを盾にしたのが気に入らないのかい? おかしなことを言う! そもそも攻撃してきたのはキミの方だろうに!」
サンファが左手を振ると、また別の魔装たちが、倒れ伏す二人を隅へと運んで行った。遠目には魔素が失われた様子ではない……生きている、と思うけれど。
「敵の駒を気にする余裕があるのかい?」
「ユーハ、危ない!」
「っ!」
魔装の様子に気を取られていた俺に、不意を打つように新たな魔装が小剣を振るってきた。
アイリスの呼びかけで間一髪避けることに成功する。
「僕もまだ甘く見ていたようだ。仮にもキミらは、あの天壌紅蓮を退けた二人。着実に一人ずつ潰していくべきだったね」
「何を……うおっ!?」
サンファの左手が示したのは、大人数での物量による制圧だった。
俺一人に対し、魔装らが優に三十人ほどの頭数で取り囲み、心技なり直接攻撃なりで再びの連撃が始まる。
「ユーハっ!」
がら空きと思われたアイリスにも、十人弱くらいの魔装たちが、近距離ではなく中・遠距離を保ち、心技をメインに立ち回り、俺から彼女を引き離し始めた。




