夜と共に駆ける者②
「――殺せッッ!!!」
憤怒の形相に歪んだ魔術師が、右手の杖を俺たちに向かって突きつけた。
声高に告げられた指令に従い、周囲で待機していた響心魔装たちが一斉に飛び掛かってくる。
一気に十人弱の人影が、絶妙に抜け出る隙間が無いような間隔で迫り、更に数人が小さく跳躍し、中空から狙いを定めている。
「アイリス、しゃがめ!」
「っ! ハイっ!」
後方のアイリスが膝を沈めるのを背中で察すると共に、俺はその場で時計回りに旋回する。
「ディアナ!」
『はい!』
右手の相棒に心素を送り込む。久方ぶりの息を合わせる感覚。
声を重ねる。
「『闇夜神路!!』」
円環状に放たれた夜色の波動が、迫りくる魔装たちをまとめて吹き飛ばした。
操られているだけで罪がない魔装たちを傷つけないよう、威力はそこそこにしたつもりだが、思った以上に勢いの強い波動が放出され、内心驚く俺。直撃した魔装たちがせいぜい気絶程度で済んでいる様子を見て胸を撫で下ろす。
「ディアナ!」
心技を放ち迎撃に成功したのを見て、アイリスが飛びついてきた。
『……アイリス様。ご心配をおかけして、申し訳ありません』
「そうよもう! 心配したんだからね! ……でも、ホントによかったぁ」
本当はディアナを抱きしめたかったのだろうが、今の彼女は剣の姿なので、俺も巻き添えにかき抱かれる感じになる。
くるしい。
「え? あ! ちょっと邪魔すんじゃないわよ!」
「無茶言ってんなよな……ほら、離れた離れた」
俺を巻き込んでいたことに気付いて喚くアイリスを引きはがす。今そんなことしてる場合じゃないだろうに。
ホラ見ろ。クソイケメン魔術師が遠目にも分かるくらいのヤバいオーラを放ってるぞ。
「またオマエの心素のせいか……! どこまでもどこまでも目障りな奴め……ッ!!」
呪詛でも吐き出しそうな顔を、左手でギリギリと握るように覆い、またしても情緒不安定な言葉を漏らすサンファ。「心核が二つも無ければ」とか「そもそも再びこの場に来たりしなければ」とか呟いている。
何を言ってるのか知らないけど、結局それについても、知るか、の一言を返そう。
「お前が間違えてただけだ、サンファ。覚えとけ。俺の相棒は、ディアナだ、ってな!」
魔装たちの迎撃で立ち止まった足を、再びサンファへと向けて動かす。




