独白⑤
ああ、なんだ。私はそんなことのために生み出されたのか。
他の魔装たちのように、主と共に世界へ旅立つのではなく。
マスターと心を通わせ、困難を乗り越えて先へ進むのではなく。
ただの武器として、国家へ牙を剥くためだけに使い潰されるのか。
それなら、使い道のない心は閉ざしてしまおう。
得られることも無いと分かった心は、通わす相手がいないと悟った感情は、捨ててしまおう。
私はより一層無気力になって、これまでと同じ日々を過ごし続けた。
……そんなある日のことだった。
初めて私の前に、私のことを見てくれる召喚者が現れた。
それまでに見かけた召喚者のように、私ではない別の魔装をパートナーと得て立ち去るのではなく、私が眠るカプセルの前に立ち、私に向かって言葉を発していた。
その時既に心を閉ざして長かった私は何の反応も示すことは出来なかったが、彼らの話し声だけが耳に残っている。
――奈、どうだ?
――うん……わたしたちじゃダメみたい。わたしたちじゃ、この子をほんとうの意味で助けてあげられない
――そうか……
――でもね、だいじょうぶだよ。もう、何年かあとにね。この子を迎えにきてくれるひとが現れるから
――そうか。視えたんだな?
――うん……ゴメンね。わたしたちじゃ、あなたをここから連れ出してあげることはできても、いつかあなたが直面する問題をかいけつできない。でもね……
――もうすぐ、あなたを助けてくれるひとが、きてくれるからね
……何を言っているのか分からなかった。
言葉の主たちは、その一言を最後に工房を去ったようだった。学者たちの必死の説得も受け入れず、響心魔装を選ばなかったらしい。
まだ幼い少女と思われる召喚者の残した言葉は、閉ざしたはずの私の感情を揺り起こした。
そんなこと、嘘でも言わないでほしかった。
私の境遇を憐れんでの優しい嘘だったのだとしても、そんなことを言われたら、また、愚かな夢を見てしまうではないか。
こんな冷たく寂しいだけの場所から私を連れ出してくれる人が、現れてくれるって。
淡い夢に溺れてしまわないように心を平静に保ち、その一方で捨てきれない願いを抱えながら過ごしている内に……月の魔導工房の閉鎖が決まった。学者連中の国家反逆思想が、トレイユ側に気付かれたらしかった。
私はカプセルに納められたまま、人一人いなくなった工房に取り残された。
心だけでなく、物理的にも一人になった私は、「そら見たことか。分不相応な夢だったんだ」と自嘲し、再び意識の暗闇に感情を押しやった……
そして、あの人に出会ったのだ。




