糸目か細目の奴って大体黒幕⑤
「ちょ!? なに挑発してんのよ!? これ以上怒らせてどうすんの!」
「仕方ないだろ。本心なんだから」
小学生低学年染みた反論をした俺を、アイリスが咎めてくる。まあ確かに、怒り狂うサンファへ火に油を注ぐような形になったかもしれないけど、これっぽっちも後悔なんぞしてない。
それに――今のやり取りで光明が見えたこともある。
頭の狐耳を押さえていた両手を、無言かつ無表情で下ろすディアナの様子を見て、俺は胸中で一つの活路を見出す。
今のディアナは誰がどう見ても正気じゃなく、サンファの支配下にあると分かるが……きっとそれだけじゃない、ハズだ。
ディアナの正気さえ取り戻せれば、何とかなる。
そのためのタイミングを見計らうべく、生唾を飲み込んで再びサンファの様子を伺うと。
「……フフフフフ。こうまでコケにされたのは、初めてだよ。ユーハ君」
長髪を顔の前にダラリと垂らし、隠した表情の向こうでクソイケメン魔術師の声が絞り出される。聞いてるこっちが不安になりそうな、情緒不安定な声音だ。
玉座の間に訪れたときは普通に語りかけて来たのが遠い昔のことのように思える。この僅かな時間の内に、激昂して沈静化して……感情の上がり下がりが激し過ぎる。
今の、どちらかと言えば沈静化寄りの声音が、その後の大爆発を予言しているように思えてならず、俺は思わず身構えた。
その時、唐突にサンファが左手を伸ばし、音高く指を鳴らした。
音を鳴らした左手から、水たまりに波紋が広がるように魔素が空気中に伝わり、玉座の間の壁際で集束する。
壁に沿うように集められた魔素が、黒に紫を混ぜたような、闇色の空間を形作った。縦長の楕円で形成された闇の光が、ざっと三十は越える数、出現する。
そしてその空間から、大量の人影がぞろぞろと溢れ出してきた。




