天壌紅蓮 対 皇煌宝珠②
「ちぃっ!」
城の壁に思い切り衝突しそうになる直前、空中で反転し、上手く着地するスプリングロードゥナ。
その口から、一筋の血がつうっと流れ落ちた。
今の一撃で内臓が傷ついたか。着地した壁に槍を突き立ててその場で静止しつつ、槍を握っていない左手で口元を拭う。
眼下には、神位魔術師であるスプリングロードゥナを圧倒したことに驚き、歓喜に沸く兵士と魔術師たちの姿。それと、その喧騒の中心で、碧槌を肩に担いで腰に手を当てる、イルミオーネの得意げなドヤ顔があった。
「思い知ったか! 私の言葉は虚言でも妄信でもない! そう、単純な事実だ……私には、貴様を倒す手段があるという、なっ!」
スプリングロードゥナが自分を見ていることに気付いたのか、碧槌の先端を突きつけ、イルミオーネが声高に言い放つ。
そしてその言葉を皮切りに、再びイルミオーネがスプリングロードゥナへ猛追を開始した。
中二階とでも言うべき辺りの壁で静止しているスプリングロードゥナの下へ、地面から土と岩塊を練り混ぜた柱を魔法で迫り上げさせ、足場として接近してくる。
「石充境・破筍っ!」
接近の最中、イルミオーネが黄褐色に輝く左手を掲げると、スプリングロードゥナの立っていた壁から鋭く尖った岩の柱が次々と突き出てきた。
舌打ちし、空中に身を躍らせる。スプリングロードゥナの長髪とマントの端を、そそり立つ石筍が穿ち、裂いた。直撃しそうないくつかの石筍を火球で防ぎ、再び地面に舞い戻る。
「石充境・礫!」
立ち位置の上下が逆転し、今度は上になったイルミオーネが次に放ったのは、黄褐色の魔素から成る無数の石つぶてだった。
スプリングロードゥナ一人を狙うには広範囲に過ぎる魔法だが、兵士や魔術師らはどこか慣れた様子で、盾を掲げたり結界魔法を展開したりと、早々に自身を守っている。
瓦礫の雨が己に着弾する前にそのことを把握したスプリングロードゥナは、迫る瓦礫の順序を見極めながら、金属槍で器用に弾き続けた。時には体捌きで回避し、時には灯檻で相殺し、降り注ぐ瓦礫全てをやり過ごす。
そうして足が止まった彼女を、三度の碧槌が襲った。
今度は背後からの一撃だった。いつの間に回り込んでいたのか、二撃目と同じように横薙ぎの軌跡を描く巨大な槌が、相も変わらぬ尋常でないスピードでスプリングロードゥナに向かって来る。
確かめよう。勿論その接近も認識していたスプリングロードゥナは、先の激突時に起こった事象を確認すべく、碧槌の攻撃を迎え撃った。




