天壌紅蓮 対 皇煌宝珠①
頭上から迫りくる碧槌を仰ぎ、ふう、と短く息を吐いたスプリングロードゥナは、得意魔法でもある火尖槍でその襲撃を迎え撃った。
先ほど、ユーハとアイリスが進む道を切り開くべく放った時と同程度の魔素を金属槍に込め、巨大な槌にも負けず劣らずの豪炎を放つ。
両者は空中で衝突し。
「――無駄だぁっ!」
刹那ののち、碧槌が焔槍を吹き散らした。
「な、にっ!?」
火尖槍を受けたものが普通の武器や建物であったなら、猛烈な爆発を伴って破壊されていたことだろう。
そんな、触れた何物をも火炎で包み、打ち砕く威力を秘める魔法が、あたかも水蒸気や煙でも相手にしているかの如き容易さで打ち払われた。
そのことに動揺しつつもスプリングロードゥナは、金属槍で物理的に槌を受け止める姿勢へと即座に移行する。
豪炎の槍でピンポイントに防ぐつもりだった故に、ほんの少しバランスが崩れた防御姿勢に、碧槌による一撃が振り下ろされた。
「ぐ、っ……!」
……あの小娘に匹敵するぞ、この馬鹿力は!
頭上で掲げた金属槍の切っ先で碧槌を受け止める。槍に添える両手に、受けた威力の全てが振動になって伝わり、全身が軋んで悲鳴を上げる。
その一撃が擁する威力は渾身と呼ぶに相応しく、スプリングロードゥナの全身を通し、触れている地面をも揺らすほどだった。
――全身を震わせる衝撃を認識した直後、その要因が頭上から消え去る。
「そぉらぁぁあああ!!」
「がっ!?」
その質量からは考えられない速度で槌を翻したイルミオーネが、スプリングロードゥナのがら空きの腹部へと、横薙ぎに碧槌を直撃させたのだ。
……無論、ただ撃たれるのを良しとする天壌紅蓮ではない。
一撃目による衝撃を受け身体を硬直させつつも、襲い来る二撃目はしっかり把握していた。その対抗策として、着弾するだろう付近に火炎の盾を発生させていた。
イルミオーネ自身の動きを牽制するものとして、灯檻も同時発動させていた。
しかし、そのどちらをも碧槌は歯牙にもかけず打ち払い、その狙いを的中させた。
宙に浮かぶ火球が放つ熱線も、外敵から主を護る焔の盾も、碧槌が触れた端から霧散し、形を成さなくなる。
害するもの無く、勢い全てを乗せた大槌が衝突し、スプリングロードゥナの身体が木の葉のように吹き飛んだ。




