一度は言ってみたいランキング上位のセリフ⑥
「……響心魔装だったか」
「その通り! だが、召喚者に貸し渡すような魔装と同一と侮るな。このダリアこそ、私専用に調律を施した特別製。いかに神位魔術師たる貴様だろうと……敵ではないのだ!」
その一言を皮切りに、階段最上段に立ち塞がっていたイルミオーネが地を蹴った。
階段中腹付近のスプリングロードゥナへ向け、重力を無視したように一直線で向かって来る。
そのままかなりの距離を取ったところから、柄の長さを活かし、碧槌を大振りに振り抜いてきた。
対するスプリングロードゥナは、その大雑把な攻撃を、焔を纏うことも無く右手の金属槍で受け止める。
甲高い金属音が鳴り響き、周囲の空気を震わせた。
「ふむ、動きに迷いは無いな。殊勝にも訓練したか」
「したとも。これも貴様のような侵略者を退け、我が国が世を統べるためだ!」
足場の悪い階段上だというのに、そのことをまるで感じさせない足回りで、イルミオーネが柄の長い槌を振り回す。その悉くを槍で防ぎ、時に弾きながら、スプリングロードゥナは、眉を顰めた。
……我が国が世を統べる、だと?
「イルミオーネ・トレイユ」
「……この期に及んで、なんだ。フレア・ガランゾ・スプリングロードゥナ」
本名を呼んだ声音に言い知れぬ圧力を感じ、矢継ぎ早に続けていた猛攻を止め、相手の名を呼び返す。
「まさかとは思うが、心魂奏者の目的は、トレイユの世界征服だとか抜かさないだろうな」
「フン。だったらどうした。同盟の提案ならお断りだぞ」
「いや、それはこっちから願い下げだが」
なにおう!? と憤慨する少女を余所に、僅かな時間スプリングロードゥナは、思想に耽る。
……トレイユ国による世界征服。ないしは世界統一が、心魂奏者サンファの目的?
そんな『安っぽい』ことがあの狐の狙いなのか? 世界規模の精神操作魔法を施してまで暗躍していた理由が、それだと?
有り得ない。そう間髪無く断ずることが出来るほど、スプリングロードゥナの抱くサンファ像と、世界征服という事象には圧倒的な乖離があった。
が、このイルミオーネという少女は、王女という座に就いていながら、腹芸の出来る性根ではない。
あの狐のことだ。それらしい口八丁で丸め込むなんて容易かったろう。
であるならば、一部は事実?
……世界征服の『先』がある?
「――成程」
「っ!?」
数秒の思案で、ある一つの帰結に辿り着いたスプリングロードゥナは、全身を囲うように轟々とした焔を噴き上げさせ、戦意を露わにした。
「どうやら、サンファに直接真意を問い質す必要がありそうだな」
「フン。何のつもりか知らんが、ここを通すわけないだろ――ダリア!」
『はぁーい』
声高に叫ぶイルミオーネの呼び声に、間延びした声が碧槌から答える。
その声と共に、碧槌の槌部分がぐ、ぐ、ぐ、っと大きさを増していく。
直径が大の大人を優に超えた超巨大な槌を、イルミオーネが大きく後ろへ振りかぶった。背後の兵士連中と魔術師らが蜘蛛の子を散らすように距離を取る。
「食らえ……っ!」
周囲への被害などまるで考えていない甚大な一撃が、スプリングロードゥナの脳天目掛けて振り下ろされた。




