一度は言ってみたいランキング上位のセリフ③
「確かに心核が残ってますねぇー。響心魔装の強制接続からのぉー、サンファ様の素因排奪を受けて生きてるとかぁー、人間辞めてませんー?」
「……そんなん知るか。それだけじゃ、俺の魂のアイドル像を奪えやしなかったってだけだろ」
得体のしれない少女の様子に、俺はじわじわと後ずさりながら言い返す。
「へぇー。そこまで意固地な魂、ちょっと見てみたいかもですね――」
ダリアは愉快そうに目を細めると、伸びきった袖に隠れて見えない右手を俺の方に伸ばしてきた。
「っ!? 下がれ、ダリア!」
が、その手が俺の胸に触れる前に、天から一本の焔槍が降り注ぎ、行く手を阻むように突き立った。
槍から溢れ出る炎が瞬く間に勢いを増し、天井まで届く豪炎がその場で立ち昇る。
炎に驚き、緩慢な動きで退散するダリアを警戒しつつ、スプリングロードゥナが空中から降り立った。
近くの俺とアイリスにしか聞こえないくらいの声音で、ひそひそと呼びかけてくる。
「おいお前ら。ここは私に任せて先に行け」
「えっ。なに急にいいセリフ言って」
「……馬鹿言ってる場合か。こんなところで道草食ってる暇ないだろう。あのポンコツ姫が出てきたせいか、兵士や魔術師どもの警戒が薄らいでる。突破するなら今だ」
……ポンコツ姫? トレイユの女王のことだろうか。知り合いなのかな。
それはともかく、スプリングロードゥナの言葉に、改めて周囲の様子を確認する。
確かに、あれだけ俺たちの包囲に気を割いていた兵士たちが、今はトレイユの女王の挙動の方により注力しているように見えた。まあ、一応女王がいるんだもんな。万一のことが無いように気を回すのは当然か。
今しかチャンスは無い、か。
「道を作る。私の魔法に合わせて走れよ」
「……分かった」「はいっ」
俺とアイリスが頷くと、スプリングロードゥナはにかっと歯を見せて笑った。
それと共に、槍から吹き上がる炎が掻き消える。
「そら行くぞ――火尖槍・嵐燎纏!」
スプリングロードゥナは、右肩で担いでいた金属製の槍を腰元で構え、目にも止まらぬ速さで二発突き出した。迷宮で対峙した俺を襲った豪炎から成る槍が、その周囲に苛烈な熱風を撒き散らしながら押し進む。
槍そのものと、槍を中心に吹き荒れる火炎の嵐に、俺たちを包囲していた兵士、魔術師たちと、トレイユの女王までもが思わずその場で顔を覆い、身動きが取れなくなる。
「アイリス!」
「分かってるわよ!」
俺とアイリスは、豪炎の槍が蹴散らした人々の軌跡を辿り、一気に階段を駆け抜けた。桜色に光る短剣を振り払って炎熱を和らげながら、棒立ちの女王と人々との間を縫って駆ける。
その途中。
「頑張ってくださいねぇー」
誰もが身を護る紅蓮の室内で、平然とした表情のダリアと擦れ違う。
邪魔らしい邪魔もせず、ただ手を振って見せるだけの様子の彼女を一瞥し、俺たちは先を急いだ。




