一度は言ってみたいランキング上位のセリフ②
階段の中腹辺りでようやく静止した俺は、目を回した頭を抑えながら、上に乗っかったままのアイリスの身体を押す。
「なんで手ぇ離さないんだよ……重いから早く降りてくれ……」
「あんなとっさにそこまで出来るわけないでしょバカ! つーかアンタ、アイドルに向かって『重い』は禁句でしょうが!」
喚き合いながらよろよろと立ち上がると、階段の頂上には見覚えのある高慢な顔があった。
……トレイユの女王。
俺をこの世界に召び出しやがったサンファの主人にして、この国の王。
数週間ぶりに再会する相手だが、その高飛車でふんぞり返った顔にはもう会いたくなかったな。
出会い頭に口論になってしまったことを思い出し、思わず苦虫を噛み潰したような顔になってしまいそうだ。
「小僧……なんだ貴様、その『嫌なものを見た!』とでも言いたそうな面は」
「やっべ」
口元を抑えながら顔を逸らす。しまいそう、どころか普通に表情に出てたか。実際に嫌な相手であることには変わりないもんな、仕方ないな。
小さく溜め息をついてから、気を取り直して女王に向き直る。
「どうも久しぶり。そこどいてもらっていいです?」
「良いわけあるか阿呆が! ……サンファはああ言っていたが、貴様をここで潰しても変わらんだろう。おい、ダリア!」
その俺の言葉に、殊更に不機嫌そうになる女王。敬語使ったのに、相変わらずめんどくさいなあ。
女王が背後に向かって叫び散らしたかと思うと、背後に控えていた兵士と魔術師の壁が脇に寄り……一人の猫背姿の女性が姿を現した。
翡翠色の髪はぼっさぼさで、寝起きのまま手櫛すら通していないだろうと一目で分かる。
良質そうな貴族衣装を胸元やヘソが見えるくらい着崩しており、伸ばしきった袖に両の手が隠れている。トレイユの女王が着込む豪奢絢爛なマントやドレスとは、異常なほどに釣り合いが取れていない服装だ。
年齢は俺より少し上くらいか……?
ダリアと呼ばれた女性は、人目も憚らずに大きく口を開けて欠伸したかと思うと、開ききっているのかどうか分からない半目で女王を見つめた。
「陛下ぁー。気分が乗らないんで帰ってもいいですかぁー?」
「おっ、お前という奴は……!」
女王はダリアの扱いに困っている様子で、わざわざ近寄って「もう少しやる気を出せ!」と説得している。女王のしっかりと結い上げられた金髪と並んでみると、彼女の整っていない緑の髪がより際立って見えるな。
ダリアは、耳元で喚く女王の声を意にも介さぬ様子で、階下の俺たちの方をちらりと見た。
「んー、あれが例のユーハくん、でしたっけぇー?」
「あ、おい!」
「っ!」
ん!? は? 近っ!?
一瞬瞬きしたと思ったら、ダリアの気だるげな瞳が目の前に出現していた。
遠慮など一切無い視線が俺の身体を頭から爪先までジロジロと行き交い、観察される。




