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金・二・奏⑨

「こいつの復活はサンファにとって、間違いなくイレギュラーな事態の筈だ。今この時も千里万透(カレイドスコープ)で覗いているかも知れんが、知っていたところで今すぐに突入してしまえば、対策も何もあるまい。取れてもせいぜい、先日と同じように響心魔装(シンクロ・デバイス)を矢面に立たせるくらいだろう」


「それって、サンファはユーハの復活を予測してないってことですか?」


「予測どころか想定もしてないだろうよ。心核を回収されたんだろう? 魂を抜かれたのと同じだぞ。普通の人間なら即死だ」


むしろ、心神喪失状態とは言えよく生きていたな、お前。

そのフレア様の評価を聞き、アタシも改めてユーハ存命の異常性を実感する。


魂を……命を抜き取られて生きていられる人間なんていない。それはこの世界(エーテルリンク)で、いいえ、チキュウであっても変わらない普遍の事実。殺したはずの人間が目の前に現れたら、誰だって面食らうわよね。


フレア様の言う通りだとしたら、むしろその有用性を最大限に活かすには、ユーハが復活した直後である、今、トレイユに行くしかない。


ユーハは、自分が一命を取り留めた理由に心当たりがあるのか、胸の辺りを右手で(さす)ると、ほんの僅かに目を伏せた。


「……まあ、俺の心の中には常に煌めくアイドルの姿があるからな」


「あーハイハイ。あとで聞いたげるわよ」


「あっアイリスお前、俺忘れてないからな、昔のルナちゃんに会ったとか言ってたの! 色々聞かせてもらうのは俺の方――」


ちっ。面倒なタイミングで面倒なところ思い出しやがったわね。

追求されそうになる前にユーハの口を手で塞ぎ、フレア様に次なる問題点を提示する。


「理由は分かりました。でもじゃあ、転移魔法に使う魔素(マナ)はどうするんです?」


「それなら今来る」


「来る……?」


フレア様が次に指し示したのは、王城から中庭に通ずる出入口だった。

そこを指す親指に倣って、アタシも入口の方を見ると、ちょうどグゥイさんが姿を現したところだった。


「あ、グゥイさん――」


声をかけようとしたアタシは、彼女の背後からぞろぞろと出てくる大量の人影を見て固まる。


筋骨隆々とした戦士風の人や、歴戦の魔術師らしき風格を漂わせる人もいる。どこかで見覚えのある彼らは、ガランゾの特異点である迷宮に訪れる人々……冒険者に違いない。

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