金・二・奏⑦
その熱に従い、無意識にユーハの提案に頷こうとしていた自分に気付いて、思いっきり首を左右に振ってその気持ちを振り払う。あ、危ない危ない……ほんとコイツはブレないわね。普通に賛同しそうになったわ。
でも、今回ばっかりは勢いだけに任せて行くわけにはいかない。
今のアタシたちがサンファと戦ったとしても、きっと三日前と同じ結果が待ってる。
フレア様やグゥイさんも交えて、しっかりと準備を整えてから挑まなくちゃ……
「どうした、アイリス。さっさと行こうぜ」
一人神妙な面持ちで思考を巡らせていたアタシを余所に、ユーハがとにかく出立を急かしてくる。
人の気持ちも知らないでコイツはホントにもう……
度重なる催促に流石のアタシもムカッと来て、いつの間にか椅子を片付けようとしているユーハを睨んで、反論する。
「ていうか、さっさと行こうって、アンタどうやってトレイユまで行くつもりなのよ。ここから何日かかると思ってんの?」
「ああ。そこは多分、スプリングロードゥナが上手くやってくれてんじゃないかと思うんだけど」
「? 何よそれ?」
咄嗟の反論とはいえ無視できない問題のハズなのに、何のことも無しにあっさりとユーハは返答してきた。
何となく状況を把握してるとは言ってたけど、フレア様が帰国以降何をしてるかなんてアタシも知らな――
「お、揃ってるな、お前ら」
知らない、とアタシが言い終わるより早く、中庭に一人の人影が降り立つ。
三日前を彷彿とさせる登場の仕方をしたのは、今まさに話をしていたフレア様その人だった。
「ふ、フレア様!? 今までどこ行ってたんですか!?」
「なに、少し準備をな。どうやら丁度良かったようで何よりだ」
フレア様は、驚きながら問いかけるアタシを容易くあしらうと、ユーハの方を見て妖艶な笑みを浮かべる。
「世話になったみたいで、どうも」
「いらんいらん。お前の覚醒について私は何もしちゃいない。礼ならこの小娘にくれてやれ」
「あ、ちょ、揺らさないで……」
右手をひらひらとさせながら、左手でアタシの後頭部を鷲掴んで、グラグラと揺らすフレア様。
一しきり揺らされてから解放されるも、目を回してしまい、その場に蹲る。全力のライブ直後でこれはきついわ……
「おい、しっかりしろ。これからトレイユに殴り込みをかけるというのに、これくらいのことで目を回している場合か」
「いやアタシ、ライブ終えたばっかで……え? フレア様、今なんて?」
今ちょっと、信じられない言葉が聞こえた気がしたんだけど。




