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金・二・奏④

四曲目。ディアナにソロで歌ってもらった曲。


そのどこかもの悲しい旋律が、少しだけエーテルエンドでの出来事を思い起こさせる。


あのときサンファが語ったアタシの過去は、全てが偽りなく事実。

定位魔法も満足に使えないのも本当。両親がいないのも本当。


「ルナに会ったことがあるのも、本当よ」


四度目のMCで明かしたその言葉に、ユーハの右目の瞼がピクっと動いた気がした。


でも、それ以外には何も動きを見せない……ただ筋肉が収縮しただけだったの、かな。

気を取り直し、アタシは話を再開する。


「別に隠しておくつもりはなかったのよ? ていうか、アンタがルナのファンだって、最初は知らなかったし……ガランゾで聞いた時は心底驚いたわ。真面目に話してるユーハとディアナの後ろで叫んじゃうくらいね」


そして、ユーハはアタシにもルナのライブチケットを分けてくれた。最初はからかいつつも、三人で行こうって誘ってくれた。


……五曲目。最後の曲『スターエイル』。


マリーネのライブを、思い出す。

ディアナと二人でこの曲を歌った時、あのときの会場は最高最大の熱気に包まれてた。


観客たちの最前線にいたユーハも、隣のベインさんも、すっごく楽しそうにしてた。


そして何より、アタシもディアナも楽しかった。


あんな素敵なライブが出来たのも、そりゃモチロン、メインキャストであるアタシたちの活躍は当然だけど――







「――それを支えてくれる、ユーハがいたから、なのよ?」


五曲目。最後の歌を歌い終え、最終MCに入ったアタシの目には涙が滲んでいた。

……全ての曲を終えたにもかかわらず、ユーハに変化が見られない、からだ。


ダメ、なの……?


やっぱり、アタシ一人じゃ、誰も喜ばせられないの……?


サンファの言葉が、再び胸の内で鎌首をもたげる。

――一人では、魔術師としても、アイドルとしても、何の成果も出せない落ちこぼれ。


気力が抜け、粗末なステージにへたり込んでしまう。


アタシ一人じゃ……こんなとき、せめて、ディアナがいてくれたら。

サンファと共に姿を消した少女の姿を、無言のままの少年の隣に幻視する。



「――――」



そのとき、何かの声みたいなものが聞こえ、ユーハの腰の短剣がきらりと光った気がした。


「……?」


目元を拭ってもう一度よく見つめるが、短剣は光を放つどころか、鞘に刺さったまま沈黙している。

破魔桜を芯材に使った刀身だったら、ぼんやり光ってるけど……今は抜き身じゃないし、涙目だったせいで見間違えたのかな。


耳を澄ませる。聞こえたような気がした声も、もう一度耳に届いては来ない。これも、きっと気落ちしたアタシが聞き間違えたんだ。


じゃあ、やっぱり、ダメだったんだ……


今度こそアタシはそう確信し、がっくりと首を項垂れる。拭った目から大粒の涙が溢れ出し、舞台に落ちて染みを作る。


そのときだった。



「――アンコールだ、アイリス!」



「……え」

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